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◆根拠が希薄な経済制裁
 しかし、筆者が経済制裁に反対する第二の、そして最大の理由は、はたして北朝鮮が、国際社会の名において国連の制裁を受けなければならないような悪事を働いたのかという点だ。国際法上の論拠が薄弱なのだ。
 イラクは、国連加盟国である主権国家クウェートに侵攻し、占領した。領土不可侵の原則を破る、明確な国際法違反をやってのけたのである。新ユーゴも、大セルビア主義、あるいは民族浄化の名のもとに、同じく独立国として国連加盟が認められたボスニア・ヘルツェゴビナに侵攻し、イスラム教徒のムスリム人とカトリック教徒のクロアチア人のジェノサイド(民族虐殺)に狂奔している。
 北朝鮮は何をしたか。
 安保理による制裁の根拠は「平和に対する脅威、平和の破壊、または侵略行為の存在」(国連憲章第三九条)だが、何がこれに該当するのであろうか。
 米国が問題にしているのは核開発「疑惑」である。「侵略行為」は存在していない。したがって、この場合「平和に対する脅威」ということになるが、単なる「疑惑」がそれほどの脅威であろうか。
 北朝鮮は「疑惑」を大事に温存し、対米交渉の切り札、つまり「核カード」として政治的に利用しているにすぎない。言い換えれば、外交上のゲームに利用しているのだ。北朝鮮が核開発計画に乗り出したことはスパイ衛星からの画像で疑う余地はないが、北が「疑惑」を外交戦略として活用し出したのは、米国が愚直なまでに核不拡散政策に固執しているからである。
 北朝鮮は、法的には、せいぜいNPT(核拡散防止条約)違反が問われるだけである。NPTには罰則規定がない。しかも、NPTは不平等・不完全条約として、多くの国ぐにの批判の対象となっている代物なのである。問題は大きく分けて二つある。
 
 
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