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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998年3月号 『正論』
「拉致」と「里帰り」の収支決算
佐藤勝巳
「拉致」という犯罪を「里帰り」という“人道措置”で帳消しにしようと仕組んだ北朝鮮の思惑に、まんまと乗せられて34億円のコメ支援を決めた日本の愚。
◆「将軍様のおかげ」日本人妻の帰国談
 里帰りした「日本人妻」(日朝合意文書に言う日本人配偶者)たちが、北朝鮮に戻ってから何を言っているのか、わが国では知られていないので紹介する。北朝鮮の国営『朝鮮中央通信』(十一月二十一日)は、彼女らが北朝鮮に到着した直後の昨年十一月十八日、金正日に「感謝の手紙」を出した旨報道している。
 例えばこんな具合である。日本の肉親や知人が自分たちをどう見たかについては「私たちの明るい顔や健康な姿を見て驚いて」いた。自分たちが日本人に「将軍(金正日のこと)の慈愛深い愛情の話」や「社会主義制度の優位性」を話してやったら「肉親や知人たちは驚き感服し、父なる将軍の国を限りなく憧れてやみませんでした」といっている。
 また、故郷に帰って「将軍の有り難さ、社会主義祖国の有り難さを心の底から痛感した」。これはひとえに「偉大な将軍が与えてくれたものである」。だから「私たちは将軍を父、祖国として従い、支えます」という。そして日本で発言したことは「心の底からの言葉」「真実の呼びかけ、感情の叫び」であったと強調している。
 さらに、上記の手紙に「偉大な将軍の直筆の返事をいただいた」のである。狂喜した在朝日本人婦人は感謝の手紙を再度将軍に書いた。(十一月二十八日)十二月一日付『朝鮮中央通信』によれば彼女らは「慈愛深い」将軍様の配慮に感謝と感激の言葉を延々と述べた後、幸福を感じながらも一方「常に罪の意識にさいなまされてきた」。それはかつて日本が朝鮮人民に大きな罪を犯したのに「共和国で誰も私たちを責めることなく暖かく接し」てくれた。その上将軍は故郷訪問を許し、墓参りするよう温情ある措置を講じてくれた――。
 だから将軍の助けになるのであれば「小さな釘にもなり、奇麗な小石、一本の苗木にもなります・・・・・・わが祖国の富強繁栄のために一ワットの電気、一滴の水も大切にし、通りや村をわが家の庭のように奇麗にします」「私たちは今回、人はカネや物ではなく、信念と良心を持って生きなければならないということを深く感じ、悟りました・・・・・・。困難があるときには私たちの息子、娘を呼んでください。銃爆弾が必要なときは、私たちの息子、娘みなが銃爆弾となって真っ先にでるようにします」という。
 これは個人神格化政治による狂気の世界としかいいようがない。我々は久しい前から北朝鮮を「劇場国家」と呼んできた。彼の国にあっては上部からの指示でこのようなセレモニーを行うのであるが、これに参加しなかったら政治犯強制収容所送りになることは疑いない。恐ろしいといえば誠に恐ろしい国である。
 北朝鮮の政治上層部に詳しい在日朝鮮人の話によると、今回里帰りしてきた婦人たちは、日本を訪問する一カ月以上も前からホテルに缶詰めにされ、栄養度の高い食事を与えられ、思想教育を徹底的に受けさせられてきたのだという。いうなれば即席の「老女優」に養成されてきたのである。
 成田空港に到着した最初の記者会見で、予想通り「将軍様のお陰で幸せに暮らしている」と誇らしそうに発言した。これに関連して日本人記者から「他の日本人妻の生活はどうですか」という質問が出た。これは問答集にはなかったと見えて、即席の悲しさ一瞬返答に窮し、必死になって目で誰かに指示を求めていた。何時までも答えないわけにも行かず「他人のことは分かりません」と答えた。すると同席の婦人が慌てて「私たちと同じようにみんな幸せに暮らしています」と発言を訂正する場面があった。
 この婦人たちは金正日らが、「栄養失調の子供」のビデオを日本に流していることなど何も知らされずに送り込まれてきたのであろう。彼女らは実に高価なチマ・チョゴリに身を包み成田空港に現れた。栄養失調の子供の姿が強烈であっただけに、日本人の多くはその落差に戸惑い驚いた。総理経験者の一人はあの服装を見て私に「何をしている人たちですか」と尋ねた。誰もがそういう疑問を抱いたのではなかろうか。伝えられる“飢餓”と豊かそうな日本人妻の様子――。北朝鮮は訳の分からない国だと皆が首を傾げた。
 彼女らは北による日本人拉致問題が、日朝間で大問題になっていることなど知るはずもない。況んや自分たちが拉致を実行した朝鮮労働党の尻拭いの一端を担わされて、芝居をさせられていることも勿論知らない。ただいわれた通りのパフォーマンスを演じるしかない哀れな存在なのだ。自ら選んだ道とは言え、無惨としかいいようがない。目的のためには手段を選ばない金正日とその取り巻きたちのために、わが国が税金を使って何でこんな見え透いた馬鹿馬鹿しい芝居の付き合いをしなければならないのか。
 しかし、皮肉なことだが、「里帰り」を繰り返せば繰り返すほど日本人の心は確実に北朝鮮から離れて行くことは間違いない。北朝鮮や日本国内の“贖罪派”の期待とはまったく逆の現象が出現しつつある。
 
 
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