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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


◆(二)
 金日成の三周忌が過ぎると北朝鮮筋から金正日は七月に「服喪」を終わって九月九日か十月十日に総書記に就任するという話が流布されていた。九月九日が来てもその気配はまったくなかった。九月十二日朝鮮総聯の中央委員会が開かれたが、その席でも総書記推戴の「す」の字も出ていなかった。ところが九月二十一日から平安南道「党代表者会議」を皮切りに金正日総書記「推戴」運動が大衆団体も含め突如展開されだした。
 筆者は、地方の党組織が「党中央代表者会議」の代議員を選出し、あわせて「推戴決議」をやっているものと思ってみていた。ところが「党中央代表者会議」は開催されず、党中央委員会総会もなく、いきなり特別放送で「朝鮮労働党中央委員会と党中央軍事委員会は、全党の意志に基づき」「わが党と人民の偉大なる領導者金正日同志が党の公認された総書記として高く推戴されたことをここに厳粛に宣布する」と放送した。これで金正日が総書記に就任したと一部で言っているが、十月二十日現在、総書記に就任したという公式報道はない。
 前記労働新聞の社説によると「総書記推戴は全党と全人民の一致した念願に基づき、高度の政治的熱意の中で行われた」という。個人独裁社会の中で一人でも拍手しなかったら大変なことになる。誰もが「熱烈に拍手する」のは当然のことである。そんなことよりなぜ規約通りの総書記選出が行われないのかが問題である。金日成も独裁者であったが、党中央委員会や国会を開かず政治をやるようなことはなかった。
 金日成の下には、党大会に継ぐ中央委員会があり、執行機関として政治局会議、実務を取り扱っている書記局会議がある。この頂点に金日成がいた。金正日は、これまで上記三つの会議を招集せず、自分一人が取り巻きを通じあらゆることをやるという体制をとってきた。
 そして今度は「全党と全人民の一致した念願に基づき」と称し、地方党と軍を初めとする大衆団体(党員と非党員が混在している団体。朝鮮総聯は、中央、地方で推戴決議をした)に総書記就任「推戴決議」をさせ「朝鮮労働党総書記」になったと言っているが。党の総書記選挙に、非党員もいる大衆団体まで参加させるなど党規約違反であることは言うまでもない。こんなことは共産主義政党においてはありえない前代未聞のことであり、労働新聞もいうように「党建設の歴史にこれまでなかった出来事」なのである。
 今迄総書記は、中央委員総会で中央委員が選挙によって選出(党規約二四条)してきた。だから「朝鮮労働党中央委員会総書記」という名称なのである。今度の総書記の選出母体は地方の「道(県)党代表者会議」と総聯など大衆団体であるから、従来のそれとは全く異質のものである。第一に、党員でないものが共産党の総書記選出に関与するなど常識では想像もできない奇想天外なことだ。
 以上の総書記選出過程で明らかになったことは、朝鮮労働党は共産主義政党を放棄したということだ。今迄は仮にも共産主義政党といっている以上、儒教のセレモニー(服喪)は口実だと思っていたが、この無原則で無茶苦茶なやり方を見て、筆者は、ひょっとすると「服喪」は本当ではなかったのかと思うようになった。この党は金日成死亡後、急速にマルクス・レーニン主義を放棄し、伝統思想に先祖返りをしてしまった。長い歴史の中で共産主義などバブルのようなものであったのだ。
 筆者が抱き続けてきた疑問の一つは、金日成と共に間違っていても共産主義を信じ戦ってきた老幹部たちが、血を流したこともない金正日が、党や国家を次々と破壊していくことに何の危機感も持たないのだろうかということであった。仮に伝統思想に呪縛されて、金正日批判を控えたとしても、結局保身のために国民の餓死を黙認している。老幹部たちのこの無気力さは、滅び行く社会の典型をここに見る思いがする。
 今年二月十五日、金正日五十五歳の祝賀中央大会で、朝鮮労働党、党中央軍事委員会など五団体の共同祝賀文は「金正日同志は、革命軍隊が革命の主体の核心勢力……軍隊がまさに人民であり国家であり、党だという独創的な軍重視思想を提示した」と述べた。「軍が……人民であり、国家であり、党である」などとは正気の沙汰ではない。要するに金正日政治の本質は軍、暴力である。金正日が党総書記に就任したとすれば「儒教的軍事独裁政権」の成立以外の何ものでもない。
 もう一つは、金正日の意向を代弁・執行する取り巻き(桂応泰、崔泰福、金国泰、金己男、金仲麟、金容淳の各書記の他に金正日と同世代の張成沢ら若手)政治は変わらず続くだろう。組織を無視した金正日一人の考えで総ての政治が行われる。政治形態としては李朝時代の王様に近い。百十万の軍隊と核兵器・ミサイルに依拠した「金王朝」の出現と考えると分かり易い。危険きわまりない事態の出現というべきである。
 今一つの特徴は、父金日成の「神格化事業」である。金日成三周忌に当たり、死体が安置されている錦寿山宮殿の整備に三億二千万ドルを使っている。韓国政府の推算によると金日成父子「神格化事業」に費やされる金額は年間九億ドル。最も多く食糧を援助している米国の援助総額が五千万ドル余だ。九億ドルなどとんでもない金額で、これを国民の食糧に回せば外国から援助を受ける必要などないのだが、金正日にそんな考えは全然ない。金正日は自分を無条件で擁護する特権階層と軍(国民の三割に当たる)さえいれば「国家は再建できる」(亡命者の話)と本気で考えている人物である。
 
 
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