日本財団 図書館


◆突然の金正日礼賛キャンペーン
 いま一つ不思議なことは、九三年十月から、翌年四月ころまでに、労働新聞や民主朝鮮などが、突如として金正日礼賛キャンペーンを開始しだしたことである。その中身の多くは、社説などで金日成の発言を引用しての金正日礼賛である。筆者がすでに別なところに発表したものであるが、特に重要と思われるので再録する(以下のまとめは、『北朝鮮政策動向』一九九四年五月号などを参考に製作したものである)。
 (1)全党、全人民は金正日同志の領導(指導)を受けなければならない(同趣旨のもの三回)。
 (2)金正日同志が、党、国家、軍隊を領導しているから領導の継承問題は、輝しく解決している(同二回)。
 (3)金正日同志は文武忠孝を兼備した人民の誠の領導者だ(同四回)。
 (4)金正日同志は、人民を限りなく愛しているし、人民からも尊敬と愛を受けている(同十三回)。
 (5)金正日同志は、革命武力を限り無く強化発展させた(同四回)。
 (6)金正日同志は、党をはじめ政治、経済、文化を強化発展させた(同七回)。
 これだけではない。一九九三年十一月十五日北朝鮮の職業総同盟中央委員会は「金正日書記を中心とする全社会の一心団結をさらに強化するうえで提起される職業総同盟の課題について討議し」ている。
 同じ日に朝鮮民主女性同盟も中央委員会を開催し、同じ議題を討議している。更に、同月十六、十七日社会主義労働青年同盟も中央委を開き、まったく同じことを討論している。
 朝鮮総聯の日本語機関紙朝鮮時報は、金正日の誕生日である九四年二月十六日付で、金日成主席は、「(1)以前から書記が国政全般を指導している。(2)書記がその指導力によって人民から尊敬と信頼を得ている。(3)社会主義建設の勝利に向け書記の囲りに全人民が団結し、書記の領導を確固と受けとめなければならない」といったという「解説」を掲載している。
 周知のように、金正日が、金日成の後継者と決定し、二十余年が経過している。それなのに、一九九三年末から何故このようなキャンペーンだけではなく、職業総同盟などの大衆団体や海外の朝鮮総聯まで動員し、金正日擁護の大運動を展開しなければならなかったのか。
 それは前述のように、金日成の手で金正日の地位に何らかの制約が加えられた。右にみた金正日礼賛は、それへの反対キャンペーンとみるべきではないか。
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION