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◆甘い見方がミサイル開発に手を貸した
 一体なぜこんな見当違いの考えがわが国で長年に亘って大手を振ってまかり通っているのだろう。要するに米国務省と同じ発想なのだが、北朝鮮が経済的に困っているから、アメとムチを使えば彼らは核開発を放棄せざるをえなくなる、したがって彼らを孤立させず国際社会に誘導しなければならないというものだ。
 この主張は、相手を自分の物差し(価値観)で測っていることは明白だ。金父子政権がどういう「世界観と革命観」、具体的には「南北統一観」をもっているかは認識のらち外にある。韓国の盧泰愚前政権は北朝鮮に対しアメとムチではなくアメの政策を五年間取り続けた。結果は、韓国内に北朝鮮の「革命勢力」を培養しただけだった。
 米国務省のここ約一年間の北朝鮮に対するアメとムチの政策は、破綻しただけならよいのだが、北朝鮮の核ミサイル開発に時間を与えてしまったのだ。しかし、冷静に考えてみれば、北朝鮮の核ミサイルは米国にはとどかない。中国とロシアには届くが、彼らは同じものをもっているから、相互抑止力で自国の安全を守ることができる。
 韓国は、北朝鮮は同じ同胞に核兵器を使用する「筈がない」と多くの人が考えているから、安保は問題にならないのだろう。問題は日本だ。わが国は、自らを防衛する手段をまったく持ち合わせていない。加えて非核三原則なるものがあって、米軍の核ミサイルに依存することもできない。丸裸の「平和国家」である。
 北朝鮮と国際原子力機関(IAEA)の折衝が決裂すれば、同国の査察違反問題は国連に送付されるだろう。ニューヨーク・タイムズの報道によれば、米国は二月四日、国連安全保障理事会の五常任理事国大使会議の席上、中国大使に北朝鮮説得を要請し、他の常任理事国もそれを支持した。「米国と他の三常任理事国は、この要請について、北朝鮮への『最後通告』としている」という。
 今回は北朝鮮が「特定・通常査察」を受け入れることに態度をかえたが、問題の二つの施設の査察問題は手つかずで、査察問題は何も解決していない。いずれ経済制裁は避けられないだろう。
 そうすると第二の朝鮮戦争の可能性の確率は急速に高まってくる。なぜか。金日成父子政権は、もし経済制裁が実施されれば宣戦布告とみなすといっている。
 日本に対しては「日本当局者が、過去の清算もしていないのに当方の交戦対象の一方であるアメリカの側に立って無分別に行動すれば、朝鮮半島を含めた地域で予測できない悪結果を招くことになり、そうなれば日本も決してそこから逃れられないことを知るべきである」(一九九三年四月九日北朝鮮外務省スポークスマン声明)といっている。これと同趣旨の声明をその後、繰り返し行っている。
 また、韓国に対しては、経済制裁を行ったら戦争はいうまでもなく、核戦争に発展すると一九九三年四月七日の最高人民会議(日本の国会に当る)で姜成山首相が発言している。このように書くと多くの読者は、いくらなんでもそんな無謀なことはと思われると思う。それは日本人の考えであり、彼らはまったく別な考えをもっていることをリアルに認識すべきである。
 大韓機を空中で爆破することによってソウル五輪が中止できるなど日本人の誰もが考えないが、彼らは本気でそう思って実行した。危機管理は最悪の事態を予想して立てるのが常識だ。
 しかし、小沢一郎氏の言葉を借りるまでもなく、わが国には危機管理など法律としても意識としてもない。不幸なことであるが、その場合あるのは混乱だけだ。それにしても、新聞、テレビというマスメディアに関係しているジャーナリストたちは、なに故この現実を報道しようとしないのだろう。不思議な人たちである。
著者プロフィール
佐藤勝巳(さとう かつみ)
1929年、新潟県生まれ。
日朝協会新潟県連事務局長、日本朝鮮研究所事務局長を経て、現在、現代コリア研究所所長。
「救う会」会長。
 
 
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