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◆「自力開発」をソ連に言明
 だが、朝ソ関係をみているとかなり違った顔がみえてくる。去る九月二、三日ソ連のシェワルナゼ外相が訪朝、韓国との国交を樹立する旨通告した。そのとき金永南北朝鮮外相は、抗議文ともいえる「備忘録」をソ連外相に手渡した。
 その中身は全部で六項目あるのだが、第五項目に、ソ韓が外交関係を結べば、朝ソ同盟は自ら有名無実となる。そうなれば「これまで同盟関係に依拠していた一部の兵器も自力で造る対策を講じざるをえなくなろう」と書いてある。
 ところが十一月二十九日付ソ連紙『コムソモリスカヤ・プラウダ』は、もう少しはっきりと、このシェワルナゼ外相訪朝の際、金永南外相は「ソ連が韓国と国交を樹立するのであれば、われわれはもはや核兵器製造禁止の義務を負わなくなったとみなす」と発言したと、同紙ピョンヤン特派員の報道を掲載した(毎日新聞十一月三十日)。「自力で作る兵器」が核兵器を指していることが、より鮮明になってきたといえる。
 このような経過を経て、十一月十六日、北朝鮮外務省は声明を発表した。このなかで色々といっているが、要するに核心部分は「われわれはアメリカが当方に核脅威を与えないという法的保障を与える条件でのみ核保障協定に調印できる」というものだ。
 包括的保障措置協定に署名することは、核兵器不拡散に関する条約批准国に義務づけられたことを実行するかどうかの問題で、アメリカが北朝鮮に核脅威云々などとはおよそ無関係なことであろう。北朝鮮内部ではともかくも、国際的にこのような主張が通用するのは極めて困難な話だ。
 しかし、北朝鮮は、いま進められている日朝交渉で、核査察問題をめぐって交渉が行き詰まった場合、保障措置協定に署名する可能性を否定することはできないと思う。それほど北朝鮮の経済は逼迫している。だが、米国も指摘しているように「全施設を公開しない可能性が強い」と筆者も思う。IAEAの査察といっても、何ら強制力の伴うものではない。北朝鮮側が、図に示されている九竜江の中洲にIAEAの査察官を案内しなければ、それ以上どうにもならないのである。
 
 
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