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◆米政府が示した衛星写真
 米政府の核・軍事情報専門家が十月三十一日、日本政府当局者に対し、軍事偵察衛星から撮ったとみられる「門外不出」の空中写真を提示し、ピョンヤン北方九十キロ地点の寧辺(ニョンピョン)にある北朝鮮の核製造施設を説明した。
 その中身は、(1)ソ連製研究原子炉、(2)小型原子炉、(3)大型原子炉、(4)ウラン濃縮工場、(5)核燃料再処理工場、(6)爆発実験場跡、(7)金日成の別荘(略図参照)及び、各原子炉の能力など解説、結論として、北朝鮮は一九九五年までに核兵器開発が可能とみているというもの。
 それでは、いまなぜ米政府が、このような「門外不出」の軍事偵察衛星の写真までみせて日本政府に説明したかといえば、「国交正常化に向けた日朝交渉の進展ぶりが、米政府の予想をはるかに超え、その行方を強く懸念している」からだという。
 時事通信社が配信したニュースのハイライトは、原子炉の大きさに具体的にふれ、核燃料再処理施設を特定していることだ。北朝鮮の核問題で、これほど具体的に分析したものは、多分、これが最初ではないかと思われる。多少長くなるが重要なのでその部分を全文引用してみる。
1 研究用原子炉(別図の(1))=ソ連が供与したもので六〇年代初期に建設され、原子力関係の基礎研究を行っている。
2 小型原子炉(一〇−三〇メガワット)(別図の(2))=五〇年代にソ連で製造されたもので、技術的には旧式である。八七年から稼働している。フル運転すれば年七キログラムのプルトニウムを得ることが可能であり、核兵器一個分に相当する。しかしこの炉を使ってプルトニウムが生産されたとの情報は今のところない。
3 大型原子炉(※五〇−二〇〇メガワット)(別図の(3))=五〇年代にフランスで製造されたもので、技術は旧式である。八四年に着工し、現在建設中である。九四年ごろには完成するものと推定している。完成すれば年間一八―五〇キログラムのプルトニウムの生産が可能であり、これは核兵器二―五個分の量に相当する。
※原子炉の出力は冷却システム(どのようなものか不明)によって容量が異なる。このため五〇−二〇〇メガワットという大きな推定となった。
4 ウラン濃縮工場(別図の(4))=北朝鮮には天然ウラニウムの資源があり、ここで核燃料としてのウランに濃縮する。
5 使用済み核燃料再処理工場(別図の(5))=施設の外殻は、ほとんど完成している。基礎工事の段階で壁の厚さが一メートルもあることや、高い煙突の状況から再処理施設であることは間違いない。現在、内部の設備などを取り付け中のようであり、放射能を伴わないテストが続けられている。施設の稼働は九五年ごろと推定される。
6 レベルの爆発実験場跡(別図の(6))=低レベルの爆発実験を行った痕跡がクレーターとして残っている。起爆用のコードらしいものが認められる。八三―八八年に実験が行われたが、それ以降については把握していない。実験場をどこかに移したのかも知れない。
7 その他(別図の(7))=この施設区域の一角に金日成主席の別邸がある。別邸は施設を見渡せる山の上にあり、同主席がここを重視していることをうかがわせている。以上である。
 この米核専門家の説明を読む限り、いずれも、米軍事偵察衛星「KH11」から撮った写真を解析したもので、直接現地をみた人間の報告が含まれているのかどうかわからない。
 筆者は、フランスのスポットや米国のランドサットの解析写真は、解析現場に何度か立ち会っているので、その精度はおよそ想像がつく。しかし米軍の軍事偵察衛星のそれはみたことがないのでわからないが、巷間伝えられていることは「弁当の中の梅干しが識別できる」というものだ。多少誇張されていると思うが、その識別能力は、素人の予想をはるかに超えているようだ。
 
 
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