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◆当面、変化は期待できない北の統一論と対南態度
 しかし、「二段階クロス承認」の許容によって、変化したものと、変化しないものとがある。例えば、このシナリオはあくまで金日成主席が主張する「一国二体制」の連邦制統一論を土台にするものであり、盧泰愚大統領の主張する二つの主権国家の併存を前提とする「南北連合」を許容するものではない。北朝鮮が受け入れる「クロス承認」も、あくまで「一つの朝鮮」を実現するための便宜的な手段にとどまり、統一実現のために一時的に許容されるにすぎないのである。その意味では、当面、北朝鮮の連邦制統一論にも、対南態度にも基本的な変化は生じないだろう。この点についての過大な期待は禁物である。
 また、このような外交戦略を遂行するためには、北朝鮮にとって、中国の協力が不可欠である。アジア競技大会終了後、比較的早い段階で、中国と韓国の貿易事務所が北京とソウルに相互設置される可能性が濃厚であり、それには領事機能が付随する公算が大である。しかし、北朝鮮としては、在韓米軍撤退が具体化するまで、今後とも、中国に「政経分離」政策の堅持を要請し続けるだろう。先般のケ小平・金日成の秘密会談では、日朝国交樹立交渉の開始を前提に、このことが十分に話し合われたのであろう。
 もちろん、このような中韓関係の前進は米朝関係の改善を促すものである。今後、南北対話を継続しつつ、「核疑惑」を打ち消すために、北朝鮮は国際原子力機関の査察受け入れに向かい、テロリズム放棄についても、何らかの意思表明がなされそうである。そのような北朝鮮側の態度に対応して、米国政府はすでに約束した人的・経済的交流などの「相互主義的なプロセス」を進展させるだろう。要するに、「政経分離」政策に基づく交流拡大という点について、米中両国の共同歩調が実現する可能性が大きいのである。
 しかし、ほぼ確実に中韓および米朝関係に一定の前進がみられるにしても、北朝鮮の「クロス承認」受け入れが第一段階にとどまるかぎり、それは人的・経済交流を中心とするものにとどまり、外交関係の設定にはしばらく時間を要するだろう。その後、北朝鮮の政治的決断によって、あるいは周辺情勢のなし崩し的な進展の結果、中韓および米朝間に国交が樹立される。これが「二段階クロス承認」論の要点である。
 しかし、それにしても、「二段階クロス承認」の許容が従来の北朝鮮の立場からの大きな後退であることは否定できない。北朝鮮がこれを積極的に受容したのではなく、受け身の立場から許容したものであることは明らかである。また、将来の「朝鮮半島版2+4」(南北朝鮮と周辺四カ国の協議)に道を開くという意味で、それはこれまでの外交戦略の質的な変化につながる要素を秘めている。金日成はそのような過程を欠いた統一が、非現実的であることに着目したのかもしれない。
 
 
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