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◆戦略上の目標は「生き残り」と「対南の解放」
 日本でもアメリカでも大きな誤解があるが、北朝鮮は地域覇権を求めているのではない。つまり金正日はサダム・フセインではない。彼の関心は朝鮮半島に限定されている。ノドン、テポドンの目的は、軍事的には朝鮮半島有事の際、日米からの韓国への支援、とりわけ米軍の展開を遮断することにあるのである。
 北朝鮮の戦略上の目標は二つある。一つは自身の「生き残り」、つまり軍事的な安全を確保したいということである。通常戦力では韓国に勝てないことははっきりしている。そこで非対称戦略、つまり一方で核やミサイル、他方では特殊部隊やゲリラ戦という両極端に戦略の重点を置いているわけである。
 もう一つの戦略目標は「対南の解放」である。これについてはわれわれが考えているよりはるかに真剣で、しかも、後述するようにそれが不可能ではない、という彼らなりの論理をもっている。テポドンの問題は実はこの「防御」と「攻勢」の二つの戦略目標と密接にからんでいる。つまり北朝鮮はミサイルを交渉の武器にして一気にゲームの局面を転換するチャンスをさぐっているということなのである。
 したがって、ある日突然、日本列島にミサイルが飛んでくるということはない。換言すれば、朝鮮半島が平和であれば日本だけが攻撃されることはありえない。第二次朝鮮戦争が発生したとき、ミサイル攻撃の可能性が生まれるのである。これは北朝鮮問題を考えるときの重要なポイントである。日本の安全を確保するために最も重要なことは、朝鮮半島に安定的な平和体制を構築することなのである。
 では、北朝鮮が考えている局面の転換とは何か。それがいま彼らが要求しているアメリカとの「平和協定」であり、「米朝国交正常化」にほかならない。
 彼らは米朝間が正常化すれば、日本は必ずついてくると考えている。そうすればそれなりの「賠償」が入ってくるから、資本や技術によって経済危機も一段落するという期待がある。
 しかし、それ以上に重要なことは、日米との関係が正常化すれば韓国が大混乱に陥ると見ていることである。私はこれまでに三回北朝鮮を訪問しているが、彼らも自分たちより韓国のほうがはるかに経済的に発展していることは承知している。しかしその理解の仕方は独特である。韓国が繁栄しているのは日米が援助しているからであり、自主性をもった自分たちが日米と国交を正常化すれば植民地的な体質をもつ韓国はすぐに崩壊してしまうと考えているようである。
 したがって彼らにとっての最大の問題は、どうすればアメリカと平和協定を締結し、国交を正常化できるかということであり、そのための最大の手段が核やミサイルの開発なのである。
 
 
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