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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


読売新聞朝刊 2002年8月26日
不審船・20時間の攻防 2か所で爆発、沈没 救助しなければ、でも…
 
 ◆「連中は恐怖感じている」
 出動命令から二十時間近くがたっていた。昨年十二月二十二日午後九時四十七分。東シナ海で不審船を追う巡視船「あまみ」と「きりしま」に二度目の挟撃作戦が命じられた。
 「あまみ」船長の久留主真佐夫(54)は、証拠収集のためビデオを構える乗組員に「危ないから中に入れ」と言った。ブリッジは完全には防弾化されていない。「多少の反撃はあるかもしれない」と思ったが、ためらいはなかった。
 「きりしま」船長の堤正己(49)は「また行かなきゃならんのか」と思った。二度目の挟撃命令に、乗組員にも「なぜうちだけが」という雰囲気はあった。だが、「十管の事件である以上、行かなきゃしようがない」と自分に言い聞かせた。
 午後十時。挟撃が始まった。「きりしま」が不審船の左舷に船体を寄せる。不審船の右舷後方からはひと回り大きい「あまみ」が接近した。全長五十六メートル、350トンの「あまみ」が、風下から低いエンジン音を響かせ、全長三十メートル、100トンの不審船のブリッジにのしかかるように迫ってきた。「連中は押しつぶされるような恐怖を感じている」と堤は思った。
 「あまみ」の船首が不審船の船尾にぶつかった。不審船のブリッジ後部でたばこを吸っていた男二人が、ブリッジ内の男と顔を見合わせた。その直後、自動小銃が乱射された。
 「きりしま」の堤は爆竹のような音に驚いた。防弾板が邪魔で不審船がよく見えず、操舵(そうだ)手らに「どうした」と声をかけた。「撃ってきた」という返事があった。身を乗り出して見ると、男がブリッジの下の戸を開いて自動小銃を撃ってきた。弾は防弾板と防弾ガラスにはじかれた。
 「きりしま、下がってください」。正当防衛射撃に入ろうとする「いなさ」から無線が入った。反撃に備えていた「いなさ」船長の石丸昭(54)は航海長に「よかったら撃て」と命じた。仲間の船に流れ弾が当たらないのが確認され次第という意味だ。「いなさ」にも弾が飛んできた。相手の攻撃から数十秒後、20ミリ機関砲が火を噴き、百八十六発の銃弾が撃ち込まれた。
 銃撃戦が始まって一、二分たった時、突然、不審船に爆発が起きた。海保航空機の赤外線監視装置(IR)には、不審船内の二か所で爆発の熱が広がり、急速に冷えていく映像が映し出されていた。船体に穴が開き、大量の海水が入った証拠だった。午後十時十三分、不審船は海に沈んだ。
 ◆自決道連れの例、近寄れず
 「けが人が出ました」「出血が止まらない」――「あまみ」から入る連絡に、鹿児島の第十管区海上保安本部は騒然となった。本部長の横山鉄男(55)は一瞬、「殉職させてしまったか」と思った。すぐに命に別条ないと報告が入り、胸をなで下ろした。
 沈没現場を監視していた「いなさ」のIRに海に浮かぶ人影が映っていた。石丸が部下に数えさせると、十五人前後いた。だが、救助に近づくのは危険だ。韓国で起きた事件では、相手を道連れに手りゅう弾で自決した例もある。「浮輪を投げて様子を見よう」。横山の指示で、「いなさ」と「きりしま」が風上から浮輪を投げた。救助しなければという思いは、海上保安官には当然ある。一方で巡視船に侵入してくる者がいるのではないか、ほかに不審船がいるのではないかという不安もあった。石丸は侵入者に備え、乗組員に「外に出るな」と命じた。
 不審船の乗組員はしばらく固まっていたが、一人二人と姿を消し、一時間ほどで見えなくなった。
 翌二十三日未明から、乗組員の捜索と浮遊物の回収作業が始まった。二人の遺体が回収された。うち一体を引き揚げた「きりしま」の堤は検視の後、遺体にかぶせられた毛布をとった。鍛え上げられた体。三十歳前後の男だ。「彼らも祖国のためにやったんだ」。堤は心の中で「ご苦労さん」とつぶやき、朝鮮半島に向かって手を合わせた。
 堤は言う。「これまで、こっちが撃たなければ相手は絶対に撃ってこないという確信が我々にはあった。だから強行接舷もした。だが、今後はそうはいかない。我々の意識は劇的に変わった。相手の出方も変わる。同じ作戦はあり得ない」
 北朝鮮のものとみられる不審船は間もなく引き揚げられる。海上保安官たちが生死を賭(と)した二十時間の攻防。それが、謎に包まれた不審船の解明に道を開いた。(肩書は当時、敬称略)(おわり)
 
 
 
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