朝日新聞朝刊 2000年10月13日
半島の冷戦に終わりを 国務長官訪朝(社説)
朝鮮戦争で戦火を交えた米国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が、半世紀にわたる対立を越えて関係正常化に動き始めた。オルブライト国務長官が米大統領訪問の準備などのため近く訪朝し、金正日総書記と会談することになった。
金総書記の腹心で、軍の実力者、趙明録・国防委員会第一副委員長が総書記の親書を携えて訪米し、クリントン大統領や国務、国防両長官と会談して決まった。国際テロに反対する米朝共同声明も発表された。
ベルリンの壁が崩れた後も、朝鮮半島の冷戦構造には変化がなかった。しかし、六月の金大中韓国大統領と金総書記の南北首脳会談によって、ようやく変わり始めた。
離散家族の再会が実現し、南北を結ぶ京義線の修復・連結工事が始まるなど、南北間の和解は着実に進みつつある。
だが、冷戦構造の本質は、三万七千の在韓米軍、約七十万の韓国軍と、百万を超す朝鮮人民軍が、軍事境界線をはさんでにらみ合っているという厳しい現実にある。
軍事的な信頼醸成措置がとられ、双方の軍備・兵力が削減されるといった緊張緩和のプロセスが動き出さない限り、冷戦構造の本格的な解消は始まらない。それには、米朝関係の大幅な改善が不可欠である。
今回の米朝合意は、そうした方向をめざすものであり、東アジアの情勢に安定をもたらすものとして、歓迎したい。
米国は北朝鮮をテロ支援国家と認定してきたが、それをやめようとしている。よど号事件の容疑者の国外退去に北朝鮮が応じる意向を示したためだが、女性工作員による大韓航空機爆破事件などをわきに置いての方針転換は、ご都合主義のそしりを免れまい。
任期の残り少ないクリントン政権として、外交的成果を残したいという願いが背景にあるのではないか。米大陸に届く「テポドン」の開発を凍結させる狙いもあろう。国務長官の訪問で正常化へ向けた環境をつくり、具体的交渉はじっくり進めるのだろう。
北朝鮮はこれまで、韓国と米国をてんびんにかけ、一方に厳しく出る時は他方に柔軟姿勢をとる、という手法をとってきた。だが今回は、対南和解を進めつつ対米改善を図っている。そこに変化がみられる。
米朝の関係改善は、すでに韓国との国交を樹立した中国、ロシアにも歓迎されるであろう。そうなると、日朝関係の改善がいよいよ差し迫った課題となってくる。
国内には「北朝鮮は日本の資金を欲しがっており、日本側から関係改善を急ぐ必要はない」という議論が広がっている。
だが、この論に欠けているのは、日本が約三十五年間、朝鮮半島を植民地支配し、そこに住む人々を苦しめた歴史への配慮である。日韓条約で韓国には償いをしたが、北朝鮮との間では、この問題は解決していない。
朝鮮半島をめぐる事態の展開にあわてる必要はない。拉致疑惑もある。だが、「負の遺産」の清算を先送りする姿勢は、国際社会の中で生きる国としては許されない。
日朝交渉もまさに正念場を迎える。
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。