朝日新聞朝刊 2000年10月7日
説明不足も甚だしい コメ支援(社説)
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)にコメ五十万トンを追加支援する政府の方針が、六日の自民党総務会で了承された。
連立与党の公明、保守両党も大筋で容認している。
北朝鮮に対するコメ支援は六回目だが、五十万トンという規模は過去に例がない。
北朝鮮の食糧事情は、一九九五年以来の深刻な危機をひとまず脱したとされる。ただ、国連の世界食糧計画(WFP)によると、干ばつのため、今年の穀物生産は予測を下回りそうで、来年も食糧不足が続くという。
隣国の窮状に、人道的な見地からの支援を惜しんではなるまい。北朝鮮の苦境を多少とも改善させることで、朝鮮半島の緊張緩和を促し、それがひいては日朝国交正常化交渉の進展にも役立つ――そうした明確な視野に立って、思い切った支援に踏み切るのであれば非難されるべきではない。
けれども、今回の支援決定の経緯には、腑(ふ)に落ちないことがあまりに多い。
なぜ、WFPの要請十九万五千トンを大きく上回る五十万トンの支援なのか。
河野洋平外相は、北朝鮮では来年までに約百万トンの食糧が不足するとの試算をもとに、「この半分ぐらいは日本が持とうと、私の責任においてこのタイミングで決めた」と自民党外交部会で発言した。
しかし、五十万トン支援は外相の言葉通りに日本の自主的な決断だったのか。
九七年十一月、自民党総務会長だった現在の森喜朗首相を総団長とする自民、社民、さきがけの訪問団が平壌を訪れた。その際、北朝鮮側が百万トンのコメ支援を要請し、日本側が「五十万トン程度なら」と検討を約束した、とする見方が自民党内には少なくない。
北朝鮮側はこの後、一貫して五十万トン支援を日本側に迫り続けているという。政府がコメの追加支援を急ぐ背景には、何よりもそうした「密約」の履行が遅れて、国交正常化交渉が滞ることへの危機感があるのではないか。そんな疑念がぬぐいきれない。
密約はあったのか。首相や外相は疑問に率直に答えるべきだ。
自民党内では今回、農林族議員らが大規模コメ支援推進の旗を振った。国内では三年ぶりの豊作で、コメ余り対策を迫られている折も折、渡りに船と映ったようだ。
国際価格より十数倍高い国産の余剰米を支援米に充てると、約一千億円を政府が余分に負担することになる。これでは外交政策というより、自民党内の反対論をなだめるための方策というのがふさわしかろう。
日本人拉致疑惑やミサイル問題で北朝鮮への不信感がぬぐえない中で、大規模支援に踏み切るというのなら、支援の狙いを国民に明快な言葉で説明しなければならない。
ところが、政府の対北朝鮮外交の全体像はいっこうに見えてこない。森首相が通常の外交ルートを通さずに、北朝鮮の金正日総書記にあてて親書を送り、寝耳に水の政府・与党内には批判が広がっている。
対北朝鮮外交の行きあたりばったりぶりを思わせて余りある。
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