朝日新聞朝刊 1999年12月18日
償い・拉致疑惑が焦点 日朝対話、あすから北京で
日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国交正常化交渉を七年ぶりに始めるための日朝間の本格的な対話が、十九日から北京で始まる。一九九二年十一月まで続いた前回に比べ、米中韓の周辺諸国が対話を歓迎するなど国際環境が変わったうえ、北朝鮮では金日成主席から金正日総書記への代替わりもあった。どんな展開になるかは「ふたを開けるまでわからない」と政府はみているが、過去に八回開かれた交渉を振り返ると双方の主張はほぼ出尽くしている。植民地支配に対する「償い」の問題にどう取り組むか、拉致疑惑をどう処理するかなどが交渉の行く末を左右しそうだ。
十九日からの赤十字会談には、日本側は日本赤十字社の近衛忠てる^副社長が、北朝鮮側は朝鮮赤十字会の許海龍副委員長がそれぞれ首席代表を務める。二十日からの予備会談では、日本側が外務省の阿南惟茂アジア局長、北朝鮮側は外務省の呉乙鹿・第十四局長(日本担当)が首席代表となる。
今月初めに訪朝した日本の超党派国会議員団と朝鮮労働党の「共同発表」に沿って、赤十字会談では拉致疑惑や日本人妻の一時帰国、食糧支援などの「人道問題」を話し合う。予備会談では本交渉を再開する時期や場所、交渉責任者のレベルなどを決める。
関係者によると、前回の第八回交渉で双方の主張は出尽くし、並行して審議官級の実務者協議も行われ、六、七割まで論点は整理されたという。日本からは「基本関係条約案」、北朝鮮からは「善隣友好条約案」が出される段階まで進んだが、条約案の協議には至らなかった。
今回の会談を日本側は第九回交渉と位置づけ、これまでの議論を踏まえて本交渉を継続させたい考えだ。
今回、問題になりそうなのは拉致疑惑の扱いだ。第三回交渉で日本側が「李恩恵」問題を取り上げたところ、北朝鮮側が反発し、発言撤回を求めた。第四回以降は審議官級の実務者協議で話し合うことになり、本会談とは切り離された。
先の「共同発表」では、拉致疑惑は政府の協力の下で赤十字で話し合うことになっているが、これを本交渉との関係でどう位置づけるかで、もめそうだ。
<国交正常化交渉をめぐる日朝の主張>
日本 北朝鮮
●基本問題
◇旧条約
当時は合法的に締結され、 強圧的に締結したので、
有効に実施された 当初から不法、無効だ
◇管轄権
朝鮮半島の南側の主権を主 平和的に南北統一される
張することは認めない べきだとの前提で明記を
◇整合性
日朝関係は日韓関係の枠内 朝日関係の妥結を日韓関
で妥結されるべきだ 係の枠内にあてはめるな
●補償問題
◇植民地
財産請求権の観点から話し 交戦状態にあったので賠
合う用意がある 償請求権を求める
◇従軍慰安婦
財産請求権の観点から話し 強制連行問題などの補償
合う用意がある 責任は回避できない
◇戦後補償
戦後45年間の不正常な関係 敵視政策に責任を負い、
に責任はない 補償責任をとるべきだ
●国際問題
◇核問題
核開発疑惑が払しょくされ 核政策は特定査察で平和
なければ関係改善できない 目的であると確認された
◇ミサイル
ミサイル兵器の開発、輸出 ミサイル開発は国家の自
はすべきではない 主権に属する
●その他
◇拉致疑惑
「行方不明者」として調査 「行方不明者」として赤
の続行を求める 十字が調査を続行する
◇日本人妻
国籍離脱者の帰国にも柔軟 国籍離脱者を受け入れな
に対応する かったために中断した
◇食糧援助
正常化交渉と別でもない 国交正常化交渉の前に支
し、リンクもさせない 援することで合意した
◇法的地位
在日朝鮮人の法的処遇の改 歴史的経緯を考え、在日
善には努力している 朝鮮人の諸権利の保障を
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。