朝日新聞朝刊 1999年12月4日
双方は誠意を尽くせ 日朝交渉(社説)
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪問した村山富市元首相を団長とする超党派国会議員団と、金容淳書記ら朝鮮労働党は、中断している日本と北朝鮮の国交正常化交渉を無条件で、早期再開するよう政府に促すことで合意した。
また会談では、日本人拉致問題について北朝鮮が「行方不明者」として調査することを表明、北朝鮮への食糧支援や日本人妻の一時帰国などを話し合った。こうした「両国が関心を持つ人道問題の解決」については、両国の赤十字に協力を勧告するとの共同発表に署名した。
経緯はどうあれ、古代から文化の交流と人の往来が続いてきた隣国同士に、いまだに国交がないことは不正常としか言いようがない。
村山訪朝団が国交正常化交渉に向けて道筋をつけたことを評価したい。日朝関係の正常化は、北東アジアの平和と安定にとってプラスの役割を果たす。だから米国、韓国、中国もこれを歓迎している。
拉致問題などを赤十字ベースで取り扱うことにしたのも、現実的な処理の方法である。誠実に「行方不明者」の再調査をするよう北朝鮮に強く求めたい。
「テポドン」の発射に象徴される北朝鮮のミサイル問題について、議論する場を設ける合意がなかったのは残念だ。当面は、日米韓が足並みをそろえ、米朝間のミサイル協議の場で、開発の中止を求めていくほかはないだろう。
日朝交渉は一九九〇年に自民・社会両党代表団が訪朝して開始が決まった。だが、九二年の第八回会議で、北朝鮮側が交渉の席につかず、決裂した。
交渉が中断していたこの七年間、朝鮮半島情勢は大きな変化があった。
北朝鮮の核開発疑惑、金日成主席の突然の死去、金正日体制の確立、米朝の枠組み合意、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の成立、北朝鮮の食糧危機、韓国の金大中政権の誕生などである。
米国はペリー北朝鮮政策調整官(前国防長官)の報告に基づき、北朝鮮が崩壊しないと判断。北朝鮮側のミサイル発射凍結を受けて、制裁を一部解除した。金大中大統領の「太陽政策」も、北との共存を前提としている。中韓国交樹立で冷却した中国と北朝鮮の関係も改善に向かっている。
日朝の国交正常化交渉の再開は、こうした朝鮮半島をめぐる国際情勢の変化に対応するものである。
もちろん、前途は平たんでない。北朝鮮の体制や政策はなお不透明であり、双方の不信感は根強い。
九五年にも自民、社会、さきがけ三党訪朝団が、前提条件なしの交渉再開を政府に勧告することで合意した。これを受けて政府は、有償、無償を合わせてコメ十五万トンの支援をしたが、本交渉は実現しなかった。二の舞いは避けなければならない。
交渉ごとにはタイミングが大切だ。今世紀に生じた負の遺産は、できる限り来世紀に持ち越さないようにしたい。両国政府は、今回の合意に基づいて速やかに交渉のテーブルにつくべきである。
話し合いは容易には進展しないかもしれない。北朝鮮側は食糧支援の先行を望んでいるが、日本側は正常化交渉と人道問題の協議を並行して進めるよう求めている。
だが、決裂は何も生まない。双方は誠意を尽くして、粘り強く交渉に臨まなければならない。
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