朝日新聞朝刊 1999年2月16日
多国間外交への条件 北朝鮮政策(社説)
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)政策の見直しを進めている米国のペリー政策調整官(前国防長官)が、来月平壌を訪れる意向だという。
政策見直しの報告書を北朝鮮側がどう受け止めるか。対北朝鮮強硬派をかかえる米議会の理解を得られるか。金正日総書記が会談に応じるのか。実現には、なお不確かな要素が多い。
五年前の米朝合意では、地下核施設の疑惑や「テポドン」の開発など、新たな脅威の拡大にもはや対応できない。
そこで、北朝鮮側に対して、確かな「脅威の削減」を迫るかわりに、外交関係の改善や経済支援を一体化した、より包括的な合意をめざすのが、ペリー氏の考えとみられる。
その状況判断は妥当だと思う。金総書記との会談が実現すれば、意義は大きい。
報告書に盛り込まれる新政策づくりには、難題がいくつもある。
核兵器やミサイル開発の中止、査察、検証をどう具体化するか。経済援助の規模は。北朝鮮の将来をどう予測し、米朝国交正常化への道筋をどう描くか……。
ひとつだけ確かなことがある。報告書の策定や、それに沿った米国の対北朝鮮政策の展開は、韓国、日本、さらには中国をも巻き込んだ多国間の協力態勢なしには考えられない、という現実である。
ペリー氏は来月はじめに日本と韓国、中国を歴訪し、報告書について最終調整を行う。経済支援を含む今後の北朝鮮政策を展開するうえで、各国の支持、協力が不可欠であればこそだろう。
韓国の基本は「太陽政策」だ。軍事的な抑止を維持しつつ、北朝鮮への経済支援、米朝正常化などを進める。同時に核兵器、ミサイル開発の中止や南北関係の改善などを一括して実現すべきだ、と主張する。
北朝鮮の政策変化を促しつつ、南北の和解と共存を図り、統一に備えるというのが、そこに込められた将来展望である。
朝鮮半島の不安定化は、中国にとっても避けたい事態に違いない。
中国は、北朝鮮と長年の友好関係を保ってきた。金総書記の訪中を実現させることができれば、それ自体が朝鮮半島情勢の安定化につながるだろう。
さて、日本である。
昨夏の「テポドン発射」に対して、政府は国交正常化交渉や食糧支援を凍結し、いったんは軽水炉提供事業への協力までを停止した。日本人拉致疑惑で世論が冷え切っていたとはいえ、反発の強さは米国、韓国をむしろ戸惑わせた。
最近になって、日本政府も北朝鮮との対話の用意を表明するなど、変化の兆しが見え始めた。
韓国からは日朝改善を促され、米政府からも食糧支援などで柔軟な姿勢を期待されていることが背景にあろう。国会議員の間で訪朝の動きも表面化してきた。
いま何より心すべきは、朝鮮半島の将来をどう展望し、その安定のためにどう貢献するのか、という日本なりの考えを持つことである。政府にも政党にも、これまでそれが乏しかった。
朝鮮半島でいまにも軍事衝突が起こるかのような危機説は、静まりつつある。だが、北朝鮮の核疑惑や経済悪化が解決されたわけではない。
問われているのは、多国間外交に臨む日本の能力と意欲である。
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