日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


朝日新聞朝刊 1985/06/05
'85春・北朝鮮から:17
切られた桜
「支配」の清算まだ 強めたい人のつながり
 
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)での取材を終え、平壌から北京に飛ぶ機内で、50歳代の日本人男性と顔を合わせた。ニューヨークに本部を置く国連開発計画(UNDP)の職員で、平壌のUNDP事務所を訪ねたあとカラチに向かう途中だった。
 
 悪くない対日感情
 
 「北朝鮮を訪れたのは初めてです」と前置きして、その職員は滞在中の見聞を語ったが、とりわけ印象深かったのは「対日感情が良かったことだった」といった。「予想外でしたね、これは。私はてっきり、この国にはいまなお反日感情が充満していると思ってましたから。なにしろ、日本は40年前まで35年間にもわたって朝鮮を植民地にしていたんですからね」。日本人として「反日」の空気を覚悟していたのだが、そうした空気があまり感じられず拍子抜けした、というのである。
 この人の経験談は、平壌滞在中に出会った、日本芸術院会員で作曲家の団伊玖磨氏の話を思い起こさせた。団氏は4月6日から平壌で開かれた「4月の春親善芸術祭典」に出演するため、声楽家の中沢桂さんらとともに初めて北朝鮮入りした。祭典では北朝鮮の国立交響楽団を指揮して自作のオペラ『夕鶴』を演奏、それをバックに中沢さんがアリアを日本語で歌った。演奏後、団氏はこう語ったものである。
 「この国で日本の歌を演奏できるなんて、驚きでした。なにしろ、韓国ではいまだに公の席で日本の歌を日本語で歌うなんてことは出来ませんからね」
 おそらく、韓国ではいまなお日本による統治時代への反発が根強く、それが日本文化への拒否反応を生み出しているということだろう。
 
 40年前の憤怒思う
 
 確かに、私たちの経験でも北朝鮮における対日感情は悪くなかった。私たちが接した人で、面と向かって「日帝」(日本帝国主義)時代のことに触れる人はなかった。むしろ「朝鮮と日本の友好を望みます」と手を差し出す人が多かった。だから「あのこと」さえなかったら、私たちも、かつて日本が朝鮮民族に対して行った武断政策や同化政策を思い起こさずに過ごせたと思われる。
 「あのこと」とは、私たちが平壌の中心部にある丘、牡丹峰に登った時のことである。道のわきに桜並木があり、今を盛りと花をつけていた。「ああ、桜だ」。私たちは思わず声をあげた。それまでこの街で桜を見ることがなかったからである。「日本と気候が似ているのに、なぜ桜が少ないのか」との私たちの問いに、案内の対外文化連絡協会の幹部はしばらく間をおいた後で、こう言った。「平壌にも、解放前にはかなりありました。が、解放直後に市民の手で切り倒されてしまったのです。桜の花は日帝を象徴するものでしたから」
 その時、私は一瞬、まるで40年前に引き戻されたような衝撃に襲われた。そして、国を、土地を、ひいては言葉も姓名さえも奪われた朝鮮民族の憤怒を改めて見た思いだった。解放から40年たって、「日帝」時代を知らぬ人々が増えているものの、民族としての体験は今もなお消えてはいまい、と私には思われた。
 それからというものは、この国の人々の日本に対する好意的な態度に触れれば触れるほど、日本が、この国の人々に対して過去の植民地支配に対する謝罪も償いもしていないな、という思いにかられた。
 
 入り口狭い日本側
 
 この問題に関する日本政府の見解は、1965年の日韓条約で解決済み、というものだ。だが、これはまだ「半分の解決」にすぎず、朝鮮半島北半部に暮らす約1900万の人々に対しては、国家としての清算がまだ残っている。そればかりか、現状では、日本政府の側にこの国と国交を正常化する意思はないうえ、日朝間の人的交流の面でも日本側の入り口は狭い。例えば、法務省調べによると、83年に日本から北朝鮮に渡航した日本人は876人、北朝鮮から日本への入国者は434人で、北朝鮮側の“入超”である。
 国交正常化が当面無理なら、せめて人的交流のパイプをもっと太く出来ないものだろうか。そんな思いを抱きながら、北朝鮮の上空を離れた。
 (岩垂 弘記者)
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
12位
(28,844成果物中)

成果物アクセス数
463,067

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年5月20日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【中国について】
2.私はこう考える【ダム建設について】
3.私はこう考える【死刑廃止について】
4.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
5.私はこう考える【天皇制について】
6.私はこう考える【国連について】
7.私はこう考える【自衛隊について】
8.私はこう考える【憲法改正について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から