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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


朝日新聞朝刊 1985年06月04日
'85春・北朝鮮から:16
独自の道
生産意欲は道徳で 物質的刺激よりも重視
 
 社会主義国はどこも、生産をいかに向上させるかが悩みの種だ。別な言い方をすれば、国民の勤労意欲をいかにして高めるかで四苦八苦である。
 
 「教育」・「説得」通じ
 
 そこで、一般的な傾向として目立つのが、勤労者に対する物質的な刺激だ。「多く働く人には多くを払う」というやり方で、勤労者にやる気を起こさせようというわけである。8年前、ソ連の国営工場をいくつか見学する機会があったが、そこでは、生産計画を超過達成した労働者にはプレミアム(奨励金)が支給されるほか、住宅の優先入居とか海外旅行とかいった特典が与えられていた。文化大革命を否定して近代化を急ぐ中国でも、徹底した物質的刺激策がとられており、農村では生産責任制(請負制)が採用され、企業では奨励金が復活した。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)でも、むろん物質的刺激策はとられている。生産計画を超過達成した労働者には奨励金が出るし、技術革新を考案して生産向上に寄与した労働者には賞金が支給される。が、この国を訪れるたびに強い印象を受けるのは、それにもまして政治的・道徳的刺激が重視されていることだ。つまり、この国では「教育」と「説得」という手段を通じて、勤労者の間に社会主義建設への熱意を高め、それで生産を上げようとしているようなのだ。
 
 ソ連・中国では断念
 
 例えば、この国の代表的な工場である大安重機械総合工場。「当工場でも政治的・道徳的刺激策がとられています」と前置きして、外事課指導員はこう説明した。「まず、労働者に対する思想教育。労働者側にしてみれば学習ですね。掲示板を使って労働党の政策を宣伝することにも力を入れています。優秀な労働者を表彰する制度もある。さらに、労働者を対象に革命史跡の見学も組織しています」
 そういえば、金日成主席の生家が保存されている平壌・万景台でも、革命博物館でも、また戦勝事績館でも、労働者の一団と思われる集団見学グループに何回か出会った。
 学習について言えば、官公庁に働く事務職員は「土曜学習」が義務付けられていることはすでに紹介したが、農村の協同農場でも、学習が行われている。私が訪ねた協同農場はどこでも農場の中心に「金日成主席の革命活動研究室」が設けられていた。農場の昼休みに、農場員が一堂に会して労働党機関紙「労働新聞」を輪読しているのに出合ったこともある。この国のどこを歩いてもスローガンが目立つ。これも政治的・道徳的刺激の1つだろう。
 なぜ、こんなにも政治的・道徳的刺激が重視されるのか。「政治的・道徳的刺激を二の次にして物質的刺激を主にするのは、社会主義制度の根本的性格に反する。それは勤労者の間で利己主義を助長して彼らを物欲のとりこにし、結局は社会主義制度と革命の獲得物を腐食させる極めて危険かつ有害な傾向である」(金正日著『主体思想について』)からという。だが、ソ連でも、中国でも、かつてはイデオロギー教育を通じて勤労者を鼓舞したものの、結局は専ら物質的刺激に頼らざるを得ないというのが現状だ。北朝鮮はこれから先、中ソと異なったやり方で果たして目的を達することができるか、どうか。
 
 指導者の役割強調
 
 この国には革命の指導者についても独特の考え方があるように思えてならなかった。つまり、革命における指導者個人の役割が極めて重視されているようなのだ。
 例えば、金正日書記の著作には「労働者階級の革命運動において、指導者は決定的な役割を果たす」とある。それに、対外文化連絡協会の幹部は私たちにこう語ったものである。「歴史を創造するのは人民大衆です。が、人民大衆はそのことを自覚して闘うかというと、必ずしもそうではない。そこで、人民大衆に自分自身の役割を目覚めさせるための指導が必要なのです。革命には指導者が必要ということですね」。その指導者が、この国では金主席というわけだろう。社会主義国では通常、「党による指導」が強調されるが、ここでは、「党の指導者」がより重視されているようだ。
 どうやら、この国では社会主義建設をめぐって1つの実験が行われていることだけは確かのようである。
 (岩垂 弘記者)
 
 
 
 
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