日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


朝日新聞朝刊 1985年05月29日
'85春・北朝鮮から:12
平和の中で
戦争への警戒常に 発電所も地下深く建設
 
 平壌体育館前の広場。緑やピンクのチマ、チョゴリで着飾り、記念写真のポーズをとる新婚さんが、1組、また1組とやってくる。寄り添って歩く人民軍兵士と若い女性のアベック。一流レストランで、ビール片手に冷メンを食べる制服将校。軍事休戦ラインをはさんで100万を超す大軍が対峙(たいじ)しているとは思えないほど、平壌の街は、平和に見えた。
 
 メモ…突然の詰問
 
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の西海岸、南浦閘門(こうもん)建設現場では約3万人もの軍人が作業にあたっていたが、案内の将校は「南はわれわれが南侵の準備をしているなどといっている。それが本当かどうか、これを見ればわかるでしょう」といった。板門店近くの農村では、兵士たちが耕作を手伝っていた。「もうすぐ田植えが始まる。私たちも一緒に植えますよ」と、くったくない。
 しかし、その「平和の風景」の裏に、ピンと張りつめた「戦争への警戒」があることが、次第にわかってきた。
 休日のある日のことである。私は1人で、平壌の街をブラブラ歩いていた。ソ連大使館の前に、黒山の人だかりがあった。ファシズムに対する戦勝40周年記念の写真展だった。何げなく、メモ帳を取り出して、2、3、書き込んだ。新聞記者にとってメモは、一種の習慣である。
 そのまま2、300メートル歩いた。と、カーキ色の軍服らしい制服を着た年配の男が、すっと近寄って来た。「こっちへ来い」という。塀のかげに連れていかれた。
 「証明書を」。制服の男の口調は厳しかった。メモをとったことで、挙動不審者と見られたようだ。しかし、この国では、パスポートはホテルに預けることになっている。「私は日本の新聞記者で……」と、朝鮮語で説明した。日本語はほとんど通じないから、朝鮮語が話せなかったら、どうなったろう。5分ほどで、制服の男はどうやら納得したらしい。「行ってよい」
 
 国防に予算の14.5%
 
 その翌日、今度は2人連れで街を歩いた。道が行き止まりになり、その先の木立の中に大きな建物が見えた。建物に近づこうとしたとたん、中から数人の兵士がバラバラと出てきた。正門の前に並んで、じっとこちらを観察する。気味が悪くなって近くにいた女性に尋ねると、その女性は「もっと大きな道を歩きなさい」と答えただけ。どうやらこの一帯は、外国人を近づけたくないところらしい。外国人向けに出版されている平壌市内の地図に、この建物もソ連大使館も載っていなかった。
 平壌の地下鉄は、地下100メートルのところを走る。いざ戦争となれば、防空壕(ごう)の役目を果たすことは、常識となっている。しかし、地下に潜っているのは地下鉄ばかりではなかった。平壌の北約100キロ、大同江上流にある徳川の水力発電所は、発電施設が山の中の地下深くにつくられていた。経済性とともに防衛を重視しなければならないところに、この国の苦しさがある。
 西側の見方では、北朝鮮の兵力は約70万人とされているが、当局者は「35万人が公式の数字」といった。どちらにせよ、人口約1900万人の国にとっては、大きな負担だ。今年度の国防費は国家予算の14.5%を占めると発表されている。北朝鮮は、経済統計を実数では発表しない。人民経済大学の教授は「それは、わが国が依然、米軍と対峙しているからだ」と説明した。
 
 「いまだ停戦状態」
 
 規模こそ小さいが、南北の軍事衝突は、断続的に繰り返されている。最近では、昨年11月、板門店の軍事境界線をはさんで、南北が銃撃戦を展開、双方に6人の死傷者を出した。事件直後、北側の兵士の間で「仲間が殺された。復しゅうしよう」という声が出たという。それ以来、板門店の軍事休戦委員会会議場へ、北側からの参観はできなくなった。
 「わが国は平和状態ではありません。停戦状態にすぎないのです」。かつて韓国に住んでいたとき、繰り返し聞かされた同じ言葉を、北朝鮮滞在中にも聞いた。
 (田中 良和記者)
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
12位
(28,694成果物中)

成果物アクセス数
462,081

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年4月22日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【中国について】
2.私はこう考える【ダム建設について】
3.私はこう考える【死刑廃止について】
4.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
5.私はこう考える【天皇制について】
6.私はこう考える【国連について】
7.私はこう考える【自衛隊について】
8.私はこう考える【憲法改正について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から