朝日新聞朝刊 1985年05月22日
'85春・北朝鮮から:7
安定社会
物価も給与も不変 水準、10年前とほぼ同じ
平壌市に住む大学職員、崔準沢さんに、家計のやり繰りを話してもらった。
月収は、準沢さんの「生活給金」(給料)が105ウォン、妻の美容師、朴慶林さんが95ウォン。仕事が忙しい時は歩合がついて慶林さんのが多少増えるが、普通は合わせて200ウォン、ホテルなどでの相場1ウォン=約100円で換算して2万円である。
支出の半分は食費
このうち約半分が食費に消える。「普通の成人男子1日700グラム」「炭鉱労働者1100グラム」といった基準で配給される主食のコメは、10キロが0.8ウォンと極めて安い。が、大学生1人と高等中学生2人という食べ盛りを抱えている崔家では、副食費も含めて月に100ウォン程度はかかる。
2Kのアパートは国から貸与されたもので、使用料が月10ウォン。冬季は暖房費が1.5ウォンほど加算される。が、それでも月収の6%未満。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)では、マイホームを買う自由がないかわりに、住宅ローンの重圧もないわけだ。
「皆さんは税金で大変だそうですね」と準沢さんが口をはさんだ。この国では1974年に個人所得税が廃止され、国の収入は企業などからの税収でまかなわれている。教育も医療も無料。金日成主席の誕生日に学生服が割引価格で支給される、といった配慮もある。
食費、住宅費、雑費に使った残りは貯金し、衣類、家具といったまとまった買い物に充てる。この一家が今年になって買った値のはるものは、準沢さんの背広(100ウォン)と慶林さんのニットウエア(72ウォン)。
月収3ヵ月分の貯金
「失礼ですが、貯金は」。「600ウォンです」。月収の3カ月分。「音楽好きの長男のために、古くなったバイオリンを今年中に買い替えてやりたい」「母の古希が近いので、何かお祝いを」。夫妻が話した貯金の使い道だ。
夫婦で200ウォンという月収は平壌市民の平均に近い。それは他の人々の収入をきいて確認できた。50歳の女性小学校長の180ウォン、49歳の発電所支配人の160ウォン(業績によって200ウォンにもなる)が高い方。重機械工場の高卒初任給が70ウォンで、最熟練工は140ウォンだった。
日常生活は、月200ウォンあれば十分やっていける。表を見ていただきたい。生活必需品はとにかく安い。値段は平壌の百貨店や街を歩いて調べたものだ。
ベアは昇進で得る
ところで、この給与水準と価格を、10年前の報道と比較して驚いた。両方とも、ほとんど変わっていないのだ。給与水準は70年に平均32%増額されて以来基本的に変わらず、工業品価格も74年に平均30%引き下げられて以来大きな手直しはない。物価が安定しているかわりにベアもない。収入を増やすには、昇進するしかないのである。
給与水準が上がっていないのに、北朝鮮政府が「人口1人当たり国民所得は75年に1000ドルを超え、82年には2200ドルに達した」と発表しているのはなぜか。対外文化連絡協会幹部の回答は「製品の質が良くなって実質的に値下がりしているし、政府がつくる住宅や福祉施設の数が増え、人民の総体としての生活水準が上がったからだ」というものだった。しかし、国民所得の具体的計算方法について、明確な説明はなかった。
社会主義国でも異例な物価の「安定」は、社会にとって大きな強みに違いない。が、それは価格の働きを無視してきたことでもある。技術の進歩でコストが下がった製品は、実際に値下げをして初めて、暮らしの向上と経済の活性化につながる。北朝鮮経済がもう一段の発展をとげるには、硬直した価格政策の弾力化が必要ではないか、と思った。
(岡田 幹治記者)
平壌の物価(今月4月現在)単位ウォン (円換算)
| たばこ(20本入り) |
0.4―0.5 |
(40―50) |
| しょうゆ(小ビン) |
0.7 |
(70) |
| 婦人ものワンピース(スフ) |
15.3 |
(1,530) |
| カーディガン(ニット) |
36.2 |
(3620) |
| ツーピース(テトロン)) |
80 |
(8000) |
| 既製服上下(合成繊維) |
66.3 |
(6,630) |
| 注文の背広 |
100以上 |
(10,000以上) |
| 白黒テレビ(国産) |
620 |
(62,000) |
| 電気洗濯機(国産) |
250 |
(25,000) |
| 地下鉄(全線) |
0.1 |
(10) |
| 「清涼飲料店」のビール |
0.9 |
(90) |
| アイスクリーム |
0.25 |
(25) |
| 遊園地 |
入場料 |
無料 |
| 観覧車 |
0.3 |
(30) |
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