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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


朝日新聞朝刊 1985年05月18日
'85春・北朝鮮から:5
新しい波
TVで東欧映画も 門戸開放へ着々と動く
 
 平壌市内の目抜き通りにある映画館は、中年の女性でいっぱいだった。上映されるのは「別れて幾年月」。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)で、いま評判の映画である。
 まず、スクリーンにパリの街角が浮かび上がる。エッフェル塔、がいせん門、カフェー。北朝鮮の映画としては珍しいファーストシーンだ。そして、解放直後、南と北に離ればなれとなった父と娘の物語が始まる。
 
 西側の手法も使う
 
 娘は北で育ち、サーカスのスターになって、パリへ公演に来る。これを知った父の友人が、失業している父をソウルから呼び寄せる。パリのホテルの一室で、父と娘は20数年ぶりに対面する。ひしと抱き合ったあと、娘はいう。
 「なぜお父さん1人で来たの。お母さんは……」
 母親はソウルで、交通事故に遭い、すでに死んでいた。娘は片ひざをつき、頭を下げ、父に対する娘としての朝鮮式の礼をする。そのシーンで館内から一斉にすすり泣きが起こった。
 だが、ハッピーエンドで幕、とはならない。南の情報機関の妨害で、父と娘は再び引き裂かれてしまう。そこで一時間半の映画は終わった。観客は言葉少なく、席を立った。「あの父と娘の運命が他人ごとではないからでしょう」と、案内の人は説明した。
 平壌についてすぐ、ホテルの映写室で、金策・元第1副首相の革命の生涯を描いた「草分けの道」を見るよう勧められた。この映画は全部で6時間の大作。白黒の重厚な画面で、代表的な朝鮮映画だったが、いまや庶民の目には「別れて幾年月」の方が新鮮に映るようだ。
 製作は申相玉氏。かつて「韓国の黒沢明」といわれた名監督だ。78年、トップスターの崔銀姫さんとともに香港から失跡し、昨年、北朝鮮にいることがわかって話題となった。いまは平壌市内に撮影所を構え、精力的に新作を発表。このうち「帰らざる密使」「脱出記」は日本でも上映された。
 申監督の作品は「申フィルム」と呼ばれ、とくに若い人の間で人気が高い。西側の映画の手法を採り入れ、速いテンポでぐいぐい観客を引きつける。朝鮮映画の“ヌーベルバーグ(新しい波)”といってもよいだろう。朝鮮の古典「春香伝」をオペラ化した映画「愛、愛、私の愛」は、金日成主席の誕生日の4月15日、放映された。ヒロインがチョゴリ(上着)のヒモをほどくシーンは、かすかなエロチシズムさえあった。
 
 チャンネル3つに
 
 「新しい波」はテレビにも押し寄せている。これまでチャンネルが2つだったのが、去年から「万寿台テレビ」が開局して3つになった。このチャンネルは、土、日曜に外国の劇映画を流す。主に中国、ソ連、東欧のものだ。放送が始まると、ホテルの売店に置かれたカラーテレビの前には、人垣ができた。
 北朝鮮では、テレビは白黒ならほぼ100%普及している。一部にはカラーを買う家も出始めた。そのテレビを通して外国の動きが映像で伝わってくる。最近、朝鮮中央テレビが東欧や日本のテレビ局と映像の交換協定を結んだためだ。語学や科学技術教育のための「教育テレビ」と「平壌テレビ」も近く開局するという。
 
 英語学習にも懸命
 
 門戸開放へ向かう国の動きを、人々は敏感に感じとっているようだ。平壌の人民大学習堂では、若い女性労働者が3、40人も、懸命に英語の初級に取り組んでいた。仕事の合間をぬって、英語の本を広げている若者もいる。世界文学全集の刊行も始まった。こうした一連の動きは、「金正日書記の指導による」と説明された。
 北朝鮮はこれまで、外国からの情報を制限し、その中で独自の価値観とまとまりのある社会を築いてきた。それが、外から吹き込んでくる「新しい風」を受けて、どのように変わっていくだろうか。
 (田中 良和記者)
 
 
 
 
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