朝日新聞夕刊 1978年11月30日
'78初冬・北朝鮮:4
安定
衣食住には心配なし
資本主義国の市民生活と社会主義国のそれを比較するのは大変むずかしい。先進資本主義国の日本では、豪華できらびやかな消費物資がまことに豊富だが、住宅、子弟の教育費、医療費、といった問題になると、なんとも心細い。老後の保障も心配のタネだ。社会主義国の生活は、さしずめこれを裏返したようなものだ、と考えればいいだろう。
この国では、まず税金制度がない。教育と医療はすべて無料だ。水道、電気、暖房代を含む住宅使用料はほとんどタダに等しい。主食の米も安い。定年は男六十歳、女五十五歳だが、定年後は退職時の賃金の六〇%にあたる年金が出る。その代わりテレビ(もちろん白黒)はよく普及しているものの、カメラ、腕時計、電気洗たく機、冷蔵庫といったものはまだ大衆消費物資とはいえず、いわば貴重品だ。一般でマイカーを持っている人などはいない。
だから、消費物資の量と質で先進資本主義国にとても及ばないが、衣食住の問題が基本的に解決され、社会保障が行き届いているから、生活に落ち着きと安定が感じられる。
平壌市内にある、クリーム色の十階建て住宅の四階に住む一家を訪ねた。八畳ぐらいの部屋二つに炊事場、ふろ、トイレ付き。市の住宅建設事務所員の夫(三六)、紡織工の妻(三三)、長女(三つ)の三人暮らし。机、本箱、洋服ダンスに白黒テレビ、ミシン、冷蔵庫などがあった。夫の賃金は月に百二十ウォン(一ウォンは約百円)、妻は百十ウォン。労働者の平均賃金は百ウォン近いというから、まずは平均的な家庭か。
奥さんに「一カ月の家計費は?」と尋ねたら、「百二、三十ウォンです」。「それでは、お金が余るでしょう」といったら、「三カ月に一回ほど家族で旅行しますし、父への贈り物や兄弟、親類とのお付き合いで金がかかりますから、貯金に回します」といって笑った。(文・岩垂 弘編集委員)
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