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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


朝日新聞夕刊 1971年11月26日
チュチェの国 北朝鮮:7
板門店で
“逢瀬”に悲願かけて 探り合いつつ、笑顔たやさず
 
 平壌から板門店へは、夜汽車でたつ。午後十一時半の発車、午前五時すぎに開城市に着く。南北分断のいま、北側では一番南の都市。列車はここまでで止る。
 車で約三十分、しゃ断機が降り、武装した兵士の立つ検問所に行当る。南北双方二キロずつの非武装地帯入口。四角い岩が二重三重に列をなし、稲穂の中を横切って、丘の向うに消えていた。白く冷たい岩の帯に、きびしさがあった。
 
 鉄道もサビつく
 
 人民軍の陸軍少佐が説明する。東西二百四十キロメートルにわたって鉄条網がのび、国土を分断している。そこには、千二百九十二本の標職がある、と。標識の北側には、朝鮮語と中国語で「軍事分界線」と書かれ、南側には、朝鮮語の下に、英語。三本の幹線道路が閉鎖され、四本の鉄道が途中でさびついた。臨津江をはじめ大小百十六の河川も、有刺鉄線でしきられている、ときいた。
 サチョン橋(南側では“帰らざる橋”と呼ぶ)を渡り、左に折れ、坂を登りきると、板門店だった。北側の高台に「板門閣」、南側には「自由の家」。中間のくぼ地にある朝鮮軍事停戦委員会会議室では、テーブルが境界線をまたいでいた。その上に、朝鮮民主主義人民共和国国旗と、国連旗の、二本の小旗。板門店は軍事対決の場であった。
 だが、板門店はこの夏から、大きく性格を変えつつあった。対決の旗の代りに、協調を示す白地に赤の十字が鮮やかな旗が飾られた部屋があった。南北赤十字の予備会談場である中立国監視委員会の会議室。板門店はまた、朝鮮人同士の唯一、公認の、交流の場でもあった。
 一九七一年九月二十日午前十一時ちょうど、第一回南北赤十字予備会談は「アンニョンハシムニカ」(こんにちは)で始った。停戦委のように、英語や中国語への通訳は不要だった。一方的な非難と沈黙に代って、双方の代表五人、十本の手が結び合い、笑顔があった。
 十月十三日の第四回予備会談では乾杯も行われた。北のビールと、南のシャンパンで。十月二十日には、開城料理での宴会もあった。そして宴は会談場の外にもあった。境界線を北へ越えた芝生の日だまりに、ベンチに、サイダーを飲み、菓子をつまむ群れがいた。緑の無地の腕章の北の記者と、ブルーにPRESSの腕章の南の記者たち。大またで歩き回る白ヘルメットのMPが異物だった。
 
 コンニャク問答
 
 北・「早く予備会談を終らせて本会談にはいろう」。南・「そりゃ、十月中にも終らせたいですな。しかし場合によっては来年まで続くかもしれない」。北・「民族の念願を思えば、今年中に終らせなければ」。南・「年内に終れば、それにこしたことはない。でも何事にも順序というものが…」。肝心の赤十字会談はコンニャク問答じみて、遅々として進まない。
 たが、双方とも会場内では、決してけわしい顔は見せない。話が行きづまると、ニンジン茶を飲み、杯をかわす。貴重な“逢瀬(おうせ)”を大事にしたい、という願いを双方に感じた。乾杯のたびに、南北の接待係があわただしく動く。北は白い開きんシャツの青年。南は金色の絹のチョゴリ・チマをひらめかせ、真珠のイヤリングとアイシャドーの女性。北の代表は「四千万朝鮮民族の悲願のために」、南の代表は「五千万人」という。南北の差異が気になった。
 北側から板門店へ行った日本人記者は、取材するより、取材されるのに忙しかった。まず、北側の「労働新聞」「労働青年」新聞の記者たちにインタビューされる。「共和国の印象はどうか」。「赤十字予備会談で、わが方の代表は正当な主張をしているのに、南側では会談を引延ばそうとしているが、どうだ」。マイクがのび、シャッターの音がする。
 続いて南の記者たち。「韓国日報」「合同通信」。なかには、日本の放送局名を名乗った朝鮮人記者もいた。「北の道路は舗装されているか」「酒は飲めるか」「自由がないだろう」。
 「こじきをする自由、一人だけもうける自由はない。だが、夜間外出禁止令などもない。夜遅くても、みんなのんびり町を歩いている」と答えたら、「洗脳された日本人」という評判がたってしまった。
 
 日本人を通して
 
 同じ民族同士で顔を合わせ、会話をしながら、日本人を通して、正当性の裏付けを得ようとする北の記者。日本人を通して、北のようすを知り、北のアラをさぐろう、とする南の記者。
 板門店の宴は、妙にもの悲しかった。(宮田前特派員)
 
 
 
 
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