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序論(仮訳)
梅内拓生
日本財団必須医薬品プロジェクト委員長
 
 バマコ・イニシアティブは、サハラ以南アフリカ諸国における、長期的かつ極端な医薬品不足、そして不十分でしかも往々にして不適当な保健サービスの改善に取り組むためにスタートしたものであるが、その根底にある概念、すなわち利用者負担及びコミュニティーの共同管理による医療サービスは今や多くの国で受け入れられている。
 しかし、実際には、1993年にユニセフが行った、サハラ以南アフリカにおけるバマコ・イニシアティブの実施に関する調査でも明らかなように、多様なプログラムを通じて実施したバマコ・イニシアティブの構想は、サハラ以南アフリカ諸国にさまざまな異なる結果をもたらした。
 2年前、日本財団は、無料の総合医療政策から、利用者負担の医療政策に移行中の多くのアジア諸国における医薬品の不足と取り組むべく、RDF(必須医薬品購入資金回転システム)の設置及び運営について支援することを決定した。この時、アジアの国々は、サハラ以南アフリカ諸国と以下の点で異なることを認識していた。
 
1.一部のサハラ以南アフリカ諸国に比べて、1人当たりのGNP(国民総生産)はさほど違わないものの、経済的基盤は主として商品輸出に基づいておらず、アジア諸国ではその他の経済活動と共に、やや異なった経済志向が見られる。
2.とりわけ、社会主義から脱皮しているアジアの国の男性及び女性の識字率が相対的に高いこと。これは、地理的に万遍なく分布する、訓練された人的資源を利用できることとも関連している。
3.援助の対象に選ばれた多くのアジアの国は、特に地区及び下位地区レベルにおいて、比較的良く組織化された政府機構を備えていること。
4.コミュニティー・レベルにおける人々の企業家精神は、特に市場経済に移行中のアジアの国において旺盛であるように見えた。いわゆる「アジアのトラ」の存在は、近隣諸国に刺激を与えているように思われる。
 
 プロジェクトの開始及び保健サービスの提供に関する話し合いをするたびに、公平という点が強調された。利用者負担の考えは必ずしも公平ではないのではないか、つまり結局、貧しい者が支払うことになり、支払い能力のある者は様々な理由から支払わなくても済んでしまうのではないかという危惧が唱えられた。
 公平に関しては、二つの見解がある。ひとつは、保健サービスに支払う資金のあることを条件として、個人は自らの希望に従って保健サービスを選択する権利を有するという考え方、もうひとつは、基本的サービスの範囲が少数者の強い要求に基づくのではなく、通常、代表により、集団的に決定されるという見解である。前者の考えでは、利益が主たる動機になっており、後者はサービスが動機となっている。しかしながら、この二つの見解は保健へのアクセス及び経済的余裕に関し、公平の価値を認めており、質の高い医療に重点を置いている。どちらの考え方も、保健サービスは社会にとってメリットであり、個人がこのようなサービスに対して支払えない場合には社会的サービスとして提供される必要があることを認めている。
 しかし、他のいろいろな場所で医療サービスを受けることが可能になり、医療の質に関する情報が簡単に手に入るようになると、医療上の公平の問題は増大する。つまり経済的観点から見た場合に、現在少数の特権者が享受している利益を地球上のすべての人々が享受するようになると、そのために必要な資金は、利用者負担を組入れていない制度では、将来の世代のおおきな負担となってしまう。よって、前記の二つの見解において共通の基盤を見出し、医療サービスの提供において公平の原則を中心に据えるべく、実行可能な枠組みを形成しなければならない。
 日本財団は、選定した諸国に対するRDF支援は、保健へのアクセス及び経済的余裕に関して公平を確保するためのステップであり、また、資本としての元手の在庫の入手を一定期間に限定することにより、保健サービス及びコミュニティーに前向きで建設的な緊張感をもたらし、RDFの維持に向けて協力し、公共医療サービスの改善に資するものと考えている。
 今回の会議は、RDFの成果、補給システムの機能、RDFの運営及び共同管理におけるコミュニティーの参加に対し、RDFの設置による影響を評価すると共に、政府の提供する初期診療サービスの改善及び増大のために強化された保健チームの管理能力を評価する最初のステップであった。








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