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今なぜ海洋政策が必要なのか
 近年、世界各国が海洋の総合的な管理を国家の重要な政策課題として取り上げ、熱心に取り組んでいるのに対して、海洋国日本の海洋軽視の姿勢は不可解である。
新しい海洋秩序の形成
 20世紀後半、人類の海洋に対する関心はかってないほどに高まり、21世紀の今日に続いている。その背景には、世界人口の爆発的な増加がある。20世紀初頭には16億人であった世界人口は、1950年には25億人、現在は60億人を突破し、さらに増加を続けている。人口増加を支えたのは科学・技術の進歩による工業化の進展、農業技術の進歩並びにそれまで未開発だった水産物、石油、森林等の生物、鉱物資源の大量消費である。
 
 このため、地球上の7割を占める海洋の生物、鉱物資源に対する各国の関心が高まり、早くも1945年にアメリカが行なった大陸棚と保存水域に関するトルーマン宣言がきっかけとなって、海洋資源に対する沿岸国による囲いこみ運動が激化し、新しい海洋秩序の国際的検討が始まった。さらにその後、世界各地で海洋の汚染、沿岸域の環境破壊、海洋生物資源の減少などが進行し、海洋環境の保護・保全の重要性が認識されるようになり、これらの問題への対応が大きな課題となった。
 
 第3次国連海洋法会議が10年に及ぶ審議を経て1982年に採択した国連海洋法条約(UNCLOS)は、これらの問題に対するわれわれ人類社会の答えである。この条約は、1994年に発効し、現在ではわが国も含めて世界137カ国が締結しているばかりでなく、アメリカのような未締約国も国際慣習法としてこれを事実上受け入れている。
 
 国連海洋法条約は、「海洋の諸問題は、相互に密接な関連を有し及び全体として検討される必要がある」との認識にたって、海洋に関する国際秩序の枠組みとルールを包括的に定める画期的な条約である。長年の懸案であった領海の幅を12海里以内と定め、群島水域、排他的経済水域(EEZ)などの制度を創設し、沿岸国の大陸棚の定義を大幅に拡大するなど、沿岸国の権利の拡大を認めつつもそれ以上の権利主張に歯止めを掛け、深海底及びその鉱物資源は人類の共同財産とした。また、海洋環境を重視し、締約国に海洋環境の保護及び保全の義務を課している。
 
 さらに、1992年にはブラジルのリオ・デジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開催された。地球サミットは、「持続可能な開発」を宣言するとともに、各国は自らの管轄下にある沿岸域及び海洋環境の総合的管理と持続可能な開発を自らの義務とすることなどを定める行動計画アジェンダ21を採択し、各国にその実行を求めた。リオ+10として今年8月末から南アフリカのヨハネスブルグで開催される「持続可能な開発のための世界サミット」(WSSD)は、この10年間の取組み状況を点検し、今後の取組みの方針を検討するものである。
 
 今や、海洋には陸上に一歩先んじて包括的な国際秩序の網がかかり、持続可能な開発のための具体的な行動計画が国際的に定められ、その取組み状況の点検と今後の取組みの進め方に関する議論が国際的に行なわれていることをわれわれ日本人は認識する必要がある。
世界各国の取組み
 近年、世界各国が海洋に関心を向け、熱心に海洋および沿岸域の総合的な管理に取組んでいるのは、上記の動きと表裏一体のものである。
 アメリカは、既に1960年代末から海洋政策の策定、沿岸域管理法の制定、海洋保護区の設置、海洋大気庁の設置などに取組んできた海洋先進国であるが、1999年には大統領主導のもとに海洋・沿岸政策に関する勧告を盛り込んだ海洋に関する包括的な報告書を取り纏めたほか、さらに現在は、議会が特別の委員会を設置して新たな国家海洋政策の策定に取り組んでいる。
 
 カナダも水産・環境・海上交通・沿岸警察を合せて担当する漁業海洋省を設けて海洋問題を統括する機能を持たせるとともに、1997年には海洋法を制定して海洋の管理に取り組んでいる。また、オーストラリアも1998年末にはオーストラリア海洋政策を策定し、海洋政策の意思決定機関として、環境大臣を議長とし、環境、産業・科学・資源、観光、漁業、運輸の5大臣からなる国家海洋閣僚会議を組織して生態的に持続可能な海洋利用の施策を進めている。
 
 アジアでも各国が、それぞれ海洋政策(「中国海洋アジェンダ21」、「海洋コリア21」等)を策定し、海洋主管省庁(韓国海洋水産省、インドネシア海洋漁業省、中国国家海洋局等)を設置して海洋の管理に取組んでいる。
 
 このほか、ニュージーランド、ロシア、南アフリカ等々海洋と沿岸域の総合的管理に取り組んでいる国々は、現在では枚挙にいとまが無い。








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