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解剖学実習で考えたこと
 真下 慶子
 解剖学実習を始める前は、「本当に自分ができるのだろうか」、「遺体を見て倒れるんじゃないか」と不安が大きかったけれど、無事この実習が終了して、「ホッ」としています。この実習を通して、歯科医師という職業が、人の体にメスを入れ、その命をあずかる非常に責任のある職業であり、自分自身がその歯科医師になろうとしているという自覚を改めて持ちました。
 遺体にメスを初めていれた時のあの恐さや緊張は忘れられませんし、これから自分が歯科医師となって、たくさんの患者を診たとしても絶対に忘れてはいけないと思います。また、遺体を解剖し、全身を観察することで、今までバラバラだった知識がつながっていき生きた知識になったことが、とても実感できました。
 また遺体を通して、“生と死″、“命の尊さ″について深く考えさせられました。医学の発展のために自らの体を提供して下さった遺体を扱っていると、実習の時間をムダにはできないし、自分自身が健康であることが、どれほど幸せであるかということが分かりました。献体して下さった方々は、きっと「健康でもっともっと生きたい」と思ったからこそ、献体して下さったと思うのです。実習を始めてから、殺人事件や自殺のニュースがよく耳に入るようになりました。仮に社会の人々すべてが解剖実習を行うことができたら、殺人も自殺も減ると思います。
 そして自分がこのような貴重な経験ができたことを献体して下さった方々、またそれを承諾して下さったご家族に心から感謝し、これから自分が学んでいく歯科医学に役立てていきたいと思います。
 金沢先生が実習の最初に、「遺体は君達にとっての最初の患者である。」とおっしゃられていたのが印象的でしたが、私にとって遺体は、「患者」であるとともに「恩師」であったと思います。








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