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第二部 欧州・韓国造船摩擦における対応の概要
韓国造船問題をめぐるこれまでの主要な対応について、その概要を以下にまとめた。なお、各項目の関連資料を付録1〜12として添付した。
2.1 TBR調査に関するFearnleys社意見書(2001年3月8日)
EU造船工業会協議会(CESA)によるTBR提訴に関する意見書として、1995年〜2000年の海運市況、1990年〜2000年の造船市況、欧州の造船助成の推移、新造船のコスト構造、為替レートの新造船船価への影響についての分析を行い、低船価は以下の原因によるもので、提訴内容は正当なものでなく、TBR手続きを中止すべき旨指摘。
 
- 1995年〜2000年は海運市況が一般に悪く、船価をカバーできるだけの運賃収入がなく、船価下げの圧力が存在していたこと。
- 過去10年間、韓国及び日本の造船所が同種船舶の連続建造によるコスト削減をねらった経営方針をとりがちであったこと。
- 1990年代に世界の建造能力が急増し、供給能力過剰となったことに加え、アジア経済の混乱で新造船需要が減少し、造船事業者に船価下げの圧力が働いたこと。
- 三星で1996年〜1998年に年率15%の生産性の向上が見られたように、韓国造船所全般で生産性の向上があったこと。
- 1997年の韓国経済危機でウォン安となり、これが韓国造船業に有利に働いたこと。ウォンベースの船価は1996年との比較でみれば上昇している。
2.2 韓国造船工業会(KSA)プレス発表(2001年4月19日)
韓国造工がDrewry Shipping Consultants及びロンドンImperial CollageのAubery Silberston教授に委託して行った調査の報告書「欧州及び世界の造船市場−欧州及び韓国造船業の相対的長短に関する経済分析−」及びこれを踏まえた欧韓造船摩擦に関するKSAの基本的見解を発表。基本的見解の概要は、次のとおり。
(1) 造船市場の違い
- タンカー、バルカー、大型コンテナ船、LNG船等を中心に事業活動を行っている韓国に対し、EUは客船、フェリー、Ro−Ro船、小型コンテナ船などを中心としており、事業活動の市場分野が異なっている。
(2) 生産性、効率、競争力
- 欧州に比べ韓国の労賃が安いこと(ドイツの30〜40%)、労働者の生産性が高いこと(ドイツの35%増し)、欧州が小さな造船所で多船種少量生産なのに対し韓国は大規模造船所でスケールメリットを生かした生産を行っていること、韓国は自動化で生産性を高めていること、欧州に比べ工数が少ないこと(コンテナ船で30〜40%減)、鋼材価格が安いこと(ドイツの15〜30%安)、主機の価格も安いこと、品質・短納期・アフターサービスなどの非価格競争力も高いことなどが、韓国の高生産性・高効率をもたらし、高い競争力につながっている。
 
- CESAは建造能力を拡大して船価を下げたとしているが、建造能力拡大はWTO違反でもなく、商業上正当なものである。また、韓国造船所の不公正競争で受注ができず、船台を埋めることができないとしているが、旧東独の造船所はEUの建造量規制撤廃を求めており、韓国の悪影響を受けていないことの現れである。
(3) アジア経済危機とウォン安の影響
- アジア経済危機後、1996年末の1ドル800ウォンから97年末には1,750ウォンと急激なウォン安が進み韓国造船業の競争力は飛躍的向上した。このため、96年と同じウォン立て船価でも97年にはドル建てで40%以上安い船価が提示できた。
 
- CESAは韓国の政府助成が低船価を可能としたとしているが、ウォン安が最大の原因である。
(4) 政府助成
- 韓国輸出入銀行の輸出融資はOECDのガイドラインに適合しており、WTO協定で禁止される輸出補助金ではない。
 
- 企業のワークアウトプログラムやリストラは、造船業に特定的ではなく、また、参加企業に特別の便益を与えるものでもなかった。また、企業のリストラは、純粋な症状の判断から行われたものである。
 
- 税制措置も造船業に特定的なものでなく、あらゆる産業に供与されているもの。
(5) CESAのコストモデル
- CESAが申し立ての中で用いているコストモデルは、手法に問題があること、事例が恣意的に選択されていることなどから、助成の有無や助成による悪影響を評価する基準として適当でない。
(6) 結論
- 韓国造船業は、高い生産性、低いコスト、ウォン安などで現在の価格競争力を達成したのであって、欧州のように政府助成を受けてはいない。欧州造船業は既に競争力を失っており、こうしたことで非難を受ける謂れはない。
 
- 競争を通じた低船価の船舶の供給は貿易の太宗を海上輸送に依存する世界経済にとって重要であり、船主やシップブローカーでCESAの提訴を支持している者はいない。
2.3 欧州委員会(EC)「第4次造船市場報告書」(2001年5月)
「世界の造船市場の概況」、「韓国の船価分析」の2部構成となっており、その概要は以下のとおり。なお、従来の報告書に見られた今後とるべき措置の提案は、別途併行して貿易障壁規則に基づく韓国造船助成の調査が行われており、この調査に基づきWTO提訴の要否の決定が行われることやこれに関連して欧州造船業を保護するための助成措置についての提案が行われることから本報告書には含まれていない。
(1) 世界の造船市場の概況
- 2000年の世界の受注量は前年に比べ56%増で、その大部分が韓国の受注増となっており、韓国の更なるシェア増大につながっている。船価は1998/99年の記録的な低船価から回復しておらず、韓国造船事業者は利益を出すことが困難となっている。
 
- 韓国国内の過当競争で、現代尾浦等の修繕ドックの新造船への転用、大宇のドック延長など更なる建造能力拡張を招く結果となっている。韓国造船業が市場の安定や採算の取れる船価水準の回復に取り組んでいる兆候は見られない。
 
- クルーズ船ブームに支えられて、2000年はノルウェーを含めた欧州のシェアの低下はなかったが、クルーズ船が建造できる造船所は限られており、多くの欧州造船事業者は在来商船で極東との競争を続けている。英国のHarland&WolffやCammell Lairdなど部分的な閉鎖に追い込まれる造船所も出てきている。
 
- 日本は、中小造船所の閉鎖や大手造船所の統合でリストラを進めている。欧州でもスペインの大手造船グループの合併、イタリア造船所の民営化、ドイツの造船業の統合などリストラが進められている。
 
- 2000年第2四半期/第3四半期、タンカー、バルカー、ガスキャリア及び幾分かながらコンテナ船で船価の改善が見られたが、全般的な船価レベルはアジア危機前の1997年のレベルまでまだ回復していない。ウォン安、低賃金、大幅な生産性向上といった韓国側の主張する低船価の理由はほとんど説得性が無い。韓国の過剰建造能力とキャッシュフロー確保のための受注確保の必要が船価改善を妨げている。
 
- ECで行った韓国の受注船価のモニタリングでは、2000年秋まで見られた船価の回復傾向はその後は続いていない。企業別に見ると、三湖重工は船価の大幅な改善が見られる。現代重工及び現代尾浦は回復した船価レベルを維持できず、2000年当初の船価以下まで低下している。韓進重工は継続して船価改善が見られる。
 
- 韓国造船各社は利益の大幅減少や赤字が伝えられる。韓国側は自動車や建設部門負債処理が原因としているが、1998/99年の低船価受注とその後の人件費や物価の上昇、ウォン高が原因であることは明らかである。
 
- 韓国の造船助成に関する提訴に関して貿易障壁規則に基づく調査が行われており、この調査報告書は2001年5月末に加盟国に提出される予定である。
 
- 日本は、中小造船所の閉鎖や大手造船所の統合でリストラを進めている。欧州でもスペインの大手造船グループの合併、イタリア造船所の民営化、ドイツの造船業の統合などリストラが進められている。
 
- 日本は、中小造船所の閉鎖や大手造船所の統合でリストラを進めている。欧州でもスペインの大手造船グループの合併、イタリア造船所の民営化、ドイツの造船業の統合などリストラが進められている。
(2) 韓国の船価分析
- 基本的に従来の造船市場報告書と同様のコストモデルをもとに正常価格を算定。ただし、収集された追加情報をもとにモデルをアップデートし、インフレーションについても織り込んだ。これまでに分析した韓国の25件の受注案件の再評価を行うとともに、新たに7件の受注案件を分析。
 
- 唯一大宇のLNG船1件2%の利益が出ていると計算されたが、80%もの負債の軽減後の値であり、いずれの案件も商業的に採算がとれるものとなっていない。他の採算点に近い案件も債務軽減、増資、負債処理後のものである。コスト割れの平均は従前の25件で16%、新規の7件で14%となっている。
2.4 EC第1次TBR調査結果(2001年5月)
ECは、EU造船事業者、韓国政府(外務省、財務経済省、金融監督委員会、韓国資産管理会社、韓国輸出入銀行)、韓国造船事業者、韓国金融機関(韓国開発銀行、Chu Hung Bank、Korean First Bank、Korean Exchange Bank、Hanvit bank、Pusan bank、Hanareum banking Corporation、Shinhan Bank)、その他の第三者(ブローカー、船主、日本政府)から情報及び意見を収集するとともに、EU及び韓国において現地調査を実施し、以下の調査結果を取りまとめた。なお、韓国輸出入銀行(KEXIM)による輸出補助については、韓国側から十分な情報が得られなかったことから、継続調査を行うこととされている。
(1) 補助金の存在
提訴された助成措置を以下の項目に再整理し、個々の措置について評価を実施。総合的な結論は次のとおり。なお、特に輸出補助金に関し、引き続き調査を継続する。
 
- 韓国輸出入銀行を通じて韓国の全造船事業者に補助金が供与されている。法的に輸出に伴うものであり、WTO補助金・相殺措置協定(ASCM)第2条3によって特定性を有する。
 
- リストラ助成を通じて補助金が、漢拏重工、大東造船、大宇重工に供与された。また、優遇税制を通じて大宇重工に補助金が供与された。ASCM第2条1によって特定性を有するが、輸出に伴うものであれば、ASCM第2条3に基づき特定性を有する。
 
リストラ促進措置
1)資本構造改善計画(CSIPs)
現代グループ及び三星グループが実施したが、造船所に補助金を供与するものではなかった。
 
2)裁判所によらない負債処理
大宇のワークアウトについて、政府・公的機関による資金面での貢献、それによる利益、特定性を分析。
公的金融機関による資金面の貢献に加え、民間金融機関に対する政府の指示が存在し、ACEM第1条1.1(a)(1)(iv)に該当する資金的貢献が存在。総額2兆9,600億ウォンの債務免除は、政府支援なしには民間銀行から得られなかった。
また、ワークアウトスキームは中手財閥60社に限定しており、資格・助成額の基準が不明確で、かつ、事実上も大宇グループが主たる受益者となっており、特定性を有する。
 
3)裁判所による破産手続き
漢拏重工及び大東造船の破産手続きについて、政府・公的機関による資金面での貢献、それによる利益、特定性を分析。
大宇のケースとほぼ同じ金融機関が関与しており、企業再建手続き中に供与された支援には、ACEM第1条1.1(a)(1)(iv)に該当する資金的貢献が存在。
債務免除総額は漢撃重工2兆630億ウォン、大東造船634億ウォンに上る。
かなりの金額が、事実上漢拏重工に投入されており、特定性を有する。大宇、漢拏への助成から見て造船業が優先されており、大東のような他の造船企業への助成も特定的があると考えられる。
 
韓国輸出入銀行(KEXIM)による優遇措置
 韓国政府の協力が得られなかったが、以下のようにKEXIMの制度を通じて禁止輸出補助金が供与されていると見られる。本件については、調査分析を続ける。
1)輸出融資
適切な信用リスクの評価をしておらず、信用のない企業に輸出信用を供与していること、ECの調査で韓国の鋼船に対する輸出信用は相殺措置の対象となる輸出補助金となっていること、輸出信用の条件も船舶輸出信用了解に合致していないと見られることから、ASCM第3条1(a)の禁止輸出補助金に該当することとなる。
 
2)前受け金支払保証
前受け金支払保証制度は、長期的運営コストをカバーしておらず、ASCM附属書I(j)を満足しないため、ASCM第3条1(a)の禁止輸出補助金に該当。
 
税制優遇措置
1)税制特別措置制限法
適用を68企業に限りその内の12社が大宇グループで、特定性を有しており、ASCM第1条1(a)(1)(ii)の資金面での貢献があり、税の減免額相当の利益をもたらすもので、相殺措置の対象となる補助金に該当。
 
2)投資開発税制
本制度は広く一般に利用可能であり、利益も小さく、欧州造船業に損害をもたらすか疑問である。
 
3)リストラ税制
「キャピタルゲイン特別付加税免除」:ASCM第2条1(a)の特定性がある。韓進、三星、現代が利益を受けているが、額は無視し得る。
「現物出資に関する特別税制」:ワークアウト企業のみが利用可能で、特定性がある。大宇が利益を受けている。
「ワークアウトにおけるスピンオフ促進税制」:ワークアウト企業のみが利用可能で、特定性がある。大宇が上記の現物出資税制と合わせて780億ウォンの利益を得ている。
(2) 貿易上の悪影響と損害
1997年から2000年の受注量、売上高、船価、収益性、雇用者数、投資額、ウォン為替の変化を分析している。総合的な結論は次のとおり。
 
- ASCM第5条、TBR第2条(3)及び(4)に規定される悪影響を被っている。
 
- シェア、設備稼働率、利益、価格、雇用、投資への悪影響でASCM第5条(a)に規定される損害を被っている。
 
- 大幅なダンピング、船価低迷、失注でASCM第5条(c)に規定される著しい害が生じている。
 
- 大幅な損害・著しい害が生じているのは、コンテナ船、プロダクト/ケミカルタンカー。程度は少なくなるが、バルカー、油タンカー、客船、フェリーでも損害・著しい害が生じている。他の分野では損害・著しい害は生じていない。
(3) その他の要因
 TBR第10条(3)に基づき、助成補助金以外に悪影響を及ぼすものとなっているものを分析。総合的な結論は以下のとおり。
 
- 補助金が韓国造船事業者に低船価の提示を可能としている。
 
- 韓国の大幅な受注量・シェアの増大、船価の大幅な低下とダンピングがEU造船業に損害をもたらすものとなっている。
(4) EUの利益
 造船業、下請企業、舶用工業、シップブローカー、船主、競争・貿易歪曲効果について考察。EUのとる措置が適切なら、他の関係者に過度の悪影響を及ぼすことなく、欧州造船業にとって便益を与えるものとなると結論。
 
- 補助金が韓国造船事業者に低船価の提示を可能としている。
 
- 韓国の大幅な受注量・シェアの増大、船価の大幅な低下とダンピングがEU造船業に損害をもたらすものとなっている。
(5) 今後とるべき措置
 欧州委員会は、速やかに補助金の回収又は損害の除去を韓国政府に求めることとし、2、3週間内に協議による解決ができない場合、WTOの紛争解決了解に従った手続きを開始すべき。
 
【参考:EU造船工業会協議会(CESA)の提訴内容】
 
2000年10月24日、CESAが貿易障壁規則(TBR)に基づき、以下の措置を提訴した。
 
・国有の韓国輸出入銀行(KEXIM)による頭金支払保証
WTO補助金・相殺措置協定(ASCM)第3条1(a)の禁止輸出補助金
・韓国輸出入銀行による輸出信用
ASCM第3条1(a)の禁止輸出補助金
・負債免除、優遇的な負債の持分への転換、利子の減免及び税制優遇措置ACSM第5条の相殺措置の対象となる補助金
・造船所への資機材供給者への補助金
禁止輸出補助金、相殺措置の対象となる補助金いずれかの記述なし
 
対象産品:
 バルカー、コンテナ船、油タンカー、石油製品/ケミカルタンカー、客船、フェリー、リグを含むその他の非貨物船及びクルーズ船
 
韓国の政府助成により便益を受けた造船所:
 漢拏重工(現在の三湖重工)、大東造船、大宇重工(現在の大宇造船)、現代重工、現代尾浦、三星重工及び韓進重工
2.5 EC韓国造船問題対応方針(2001年5月8日)
2001年5月14、15日の産業閣僚理事会に提案する韓国造船問題への対応方針としてECで採択されたもの。貿易障壁規則(TBR)に基づき実施された助成調査で、WTOの1994年補助金協定に反する補助金が輸出助成及び国内助成として韓国造船業に実質的に供与されていたことが明らかとなったため、6月30日までに韓国との二国間協議で解決できない限り、紛争処理手続きに則り本件をWTOに持ち込むことを提案している。また、これと併行して、WTO手続きの結論が出るまでの間、韓国からの不公正競争により相当の損害を受けている船種に関し、欧州造船業保護のための暫定助成措置を提案している。
(1) TBR調査結果
- 5ヶ月以上にわたって行われたECによるTBR調査の結果、韓国は相当額の補助金を、主として韓国輸出入銀行による輸出補助及び政府系金融機関及び政府監督下の金融機関による負債減免・負債/持分転換を通じて供与していたことが明らかとなった。これにより主に、漢拏重工(現在の三湖重工)、大東造船、大宇重工(現在の大宇造船)が恩恵を受けている。
 
- 本調査において、ECでは欧州の造船事業者、韓国当局、韓国造船事業者、韓国金融機関、その他シップブローカーなどから情報を収集した。また、EU域内及び韓国において現地調査を実施した。
 
- 調査の結果、これらの補助金によりWTO補助金協定で定義されるところの、欧州造船業への悪影響が生じていることが示され、これらの補助金は相殺措置の対象となるものであることが明らかとなった。
 
- ECでは引き続き、韓国の当局及び造船所業者が重要な情報を提供しなかった輸出補助金の調査を継続する予定である。当該補助金とその影響に関する報告書は、別途提出の予定である。
(2) その他の措置
- 欧州造船業保護のための暫定助成措置は、コンテナ船やプロダクト/ケミカルタンカーなど韓国の不公正貿易慣行で欧州造船業が相当の損害を被っていることが示されている市場分野に限られるものとなる予定である。これらの船種に関し、一定の条件下で最大14%までの助成が認められることとなる予定である。ECでは、韓国の不公正貿易慣行で欧州造船業が直接損害を被っていることをはっきりと示す証拠があれば、対象船種を見直す予定である。
 
- 2000年11月29日の委員会決定及び2000年12月5日の理事会決定に従い、当該助成措置はEU域内の競争を歪曲化するものであってはならない。このため、当該助成措置は、加盟国が通常の通報手続きに加え、6%以上の助成を供与しようとする場合には個々にECに通報を要するものとなっており、公開入札又はこれと同様の透明性を有するその他の手続きが存在し、助成はEUの受注量を確保するのに必要最小限のものであることが条件となっている。ECでは、この通報後合理的な期間内に決定を下すこととなる。
 
- 本制度の導入には理事会の決定が必要である。
2.6 EU産業閣僚理事会の結果(2000年5月14-15日)
造船問題に関し、以下の結論を採択。
 
- 欧州委員会(EC)の第4次造船市場報告を審議し、主として韓国造船業に起因する大幅な過剰建造能力と低船価に象徴される危機的状況に変化がないことに対する深刻な懸念を確認した。
 
- 貿易障壁規則委員会に提出されるECの報告書とその結論及び提案されている今後の措置を確認した。
 
- 2000年4月の韓国との造船合意文書に示されている約束にもかかわらず、二国間協議で何らの進展がなかったことに対する深刻な憂慮を表明した。
 
- 適切な暫定助成措置を提案するとの5月8日のECの方針を確認する*とともに、6月30日までに韓国との間で解決策が得られない場合にWTO手続きを開始するとのECの方針を強く支持する。
 
- 理事会として以下を関係者に要請する。
 
1. ECは、市況のモニタリングを続けること
2. ECは、貿易障壁規則の手続きに従って輸出補助金の調査を継続すること
3. EC及び加盟国は、競争力強化について造船業界と協力を続けること
4. EU造船業界は、引き続き競争力強化に努めること
*:欧州造船業への暫定保護措置については、競争政策担当のMonti委員が韓国との協議による解決を待つとの趣旨からWTO手続きの開始までは助成措置を提案しないとしていたこと、加盟国間で暫定的とは言え助成再導入について賛否の意見が分かれていることなどから暫定助成措置提案の方針を確認するとの表現にとどまっている。
2.7 EU外相理事会の結果(2001年7月16日)
韓国のWTO提訴及び暫定助成措置について審議が行われた。WTO提訴については、大多数の国の支持が得られたものの、暫定助成措置については、賛否の意見が割れたため、助成措置についての採決は行われず、常駐代表部大使会議で、欧州委員会の提案を検討した上で、再度理事会に諮ることとされた。
 
ラミー貿易担当委員はWTO提訴と暫定助成措置はパッケージで、切り離しはできないとしており、WTO理事会後にECは、暫定助成措置について加盟国の合意が得られるまで、WTO提訴は行わないことを明らかにした。*
 
報道によれば、暫定助成措置に懐疑的なのは、オランダ、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、英国で、賛成派はイタリア、スペイン、独、ギリシャ、ポルトガル、オーストリアとされる。
 
*:WTO提訴は理事会の決定を経ずにECの決定で可能。一方、暫定保護措置の導入については理事会の承認が必要。両者をパッケージで扱うとの方針であるため、理事会で暫定保護措置が承認されるまでは、WTO提訴を行わないとの方針となった。
2.8 EC暫定造船助成規則案(2001年7月25日)
欧州委員会(EC)は、韓国造船問題のWTO提訴手続きの間、韓国の不公正慣行から欧州造船業を保護するための暫定助成規則案を採択した。本規則の概要は以下のとおり。なお、本規則施行のためには、理事会の承認が必要とされる。
(1) 助成の種類
新造船価助成(新造船契約船価の一定割合を助成金として造船所に交付するもの)
(2) 助成対象船種
コンテナ船、ケミカルタンカー及びプロダクトタンカーであって、韓国造船事業者が低船価を提示しているもの。
なお、ECは、一定の船種について、不公正・不透明な競争条件により域内造船業が直接損害を被っているとの明確な証拠がある場合には、助成対象船種を見直す。
(3) 助成率
契約船価1千万Euro以上の場合
契約船価の6%まで。
ただし、当該契約をEU造船事業者が獲得するために必要な場合は、14%まで増加が可能。この場合、以下の手続きが必要とされる。
[1]加盟国は、当該助成について個別案件ごとにECに通報。
[2]ECは、当該情報(造船所及び船主の名称・住所、船種、船型、助成額)を全加盟国に速やかに開示。
[3]各加盟国は、当該船種を建造可能な国内造船所にこの情報を速やかに開示し、各造船所は加盟国を通じて10日以内にECに意見を提出することができる。
[4]ECは、当該助成が適当でないと認めるときには、当該助成の廃止又は修正を要求する決定を行う。(詳細な手続きは1999年3月22日理事会規則No 659/1999に従う。)
 
契約船価1千万Euro未満の場合
 上記のそれぞれ半分の助成率とする。
(4) その他
本規則は、ECが正統な理由があると認める場合を除き、契約の日から引渡の日までが3年を超える契約には適用されない。
(5) 施行及び終了
本規則は、本規則の官報(Official Journal of the European Communities)掲載の日又はWTO紛争解決手続きに基づく協議要請によるWTO手続き開始の官報掲載の日のいずれか遅い日以降の新造船契約に適用される。
本規則は、WTO紛争解決手続きの終了又は韓国・EU二国間協議に基づく解決による紛争解決手続きの停止を官報掲載した日から1ヶ月、もしくは、2002年12月31日のいずれか早い日までの新造船契約にしか適用されない。
2.9 EC第2次TBR調査結果(2001年7月)
2001年5月の第一次調査結果で、継続調査とされていた、韓国輸出入銀行(KEXIM)による輸出補助制度(輸出信用融資、引渡し前建造資金融資、前受金返還保証)についての調査結果を取りまとめたもの。調査結果の概要は以下のとおり。WTO補助金・相殺措置協定(ASCM)第2条3
(1) 輸出信用融資(サプライヤーズクレジット)
外国船主と延払い契約を行った国内造船所に融資を行っている。入手した情報からは、KEXIMがOECD船舶輸出信用了解を遵守しているかどうかの結論は得られなかったが、本制度による影響は限られていることから、結論を出す必要はないものと考えられる。
(2) 引渡し前建造資金融資
国内造船所の建造資金を当該船舶の引渡しまで融資している。KEXIM自身が、1999年次報告書において、「民間金融機関から十分な融資を受けることが困難であった事業者に各種制度を提供した」としており、信用力のない造船事業者に融資を行っている。事実上倒産状態にある企業と財務的に健全な企業で融資金利が同等となっており、商業的なリスク評価が行われていない。また、同等の民間融資に比べ、一般に低い金利で融資されている。
本制度は、WTO補助金・相殺措置協定(ASCM)附属書I(a)の直接輸出補助に該当し、韓国造船事業者に直接的な競争上の利益を提供するため加害的である。
(3) 前受金返還保証(APRG :Advance Payment Refund Guarantee)
韓国造船所が建造契約の義務履行不能状態となった場合に、外国船主が韓国造船所に支払った前払い金及び利子を外国船主に払い戻す保証を提供している。本制度は、ASCM第1条1(a)(1)(ii)の資金面での貢献があり、また、保険料に対する適切な信用リスクの適用が行われておらず、造船所に利益を供与している。従って本制度は、ASCM第3条1(a)の禁止輸出補助金に該当。
(4) 今後とるべき措置
欧州委員会は、助成の撤回又は悪影響の除去を求めて韓国と協議中であるが、協議による解決ができない場合、WTOの紛争解決了解に従った手続きを開始すべき。
2.10 EU外相理事会の結果(2001年10月8−9日)
暫定保護措置案について審議が行われたものの、結論は出されず、再度加盟国による調整が指示され、今後の理事会で再検討することとされた。
 
報道による賛否は以下のとおり。なお、助成支持派と見られるスペイン及びポルトガルは、理事会では発言が無く、フランス及びベルギーは、批判的ではあるが、最終的な立場を明らかにしていない。
 
 賛成:ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク。
 
 反対:デンマーク、フィンランド、スウェーデン、英国、オランダ。
2.11 欧州議会暫定造船助成規則修正案(2001年11月15日)
欧州議会は、11月15日の本会議において、EU閣僚理事会から協議を受けていた「造船に関する暫定助成規則案」の承認を可決し、次のとおり発表。
 
- 欧州会議は、欧州造船業界に対する政府助成6%(特別な場合には14%まで)を許容する、欧州委員会の提案を承認した。
 
- 欧州議会は既に、WTOにおいて韓国に対する紛争処理手続きを開始するよう、欧州委員会に要請している。
 
- 助成対象船種(コンテナ船及びプロダクト/ケミカルタンカー)にフェリー、LNG/LPG運搬船及びRo−Ro船を追加する修正、規則の終了期限を2002年末から2003年末とする修正含む拘束力を持たない修正が承認された。
 
*:閣僚理事会による協議手続という、欧州議会の関与の度合いが低い手続きのため、欧州議会が採択した修正は閣僚理事会の決定に拘束力を持たない。
2.12 EU産業閣僚理事会の結果(2001年12月5日)
ECから提案されていた「造船に関する暫定助成規則案」についての審議が行われたが、加盟国間で意見の一致を見ず、特定多数決による可決が困難なため採決に至らず、新たな議長の下で2002年に再度審議されることとされた。
 
報道による賛否は以下のとおり。
 
 賛成:スペイン、イタリア、ギリシャ。
 
 反対:デンマーク、フィンランド、スウェーデン、英国、オランダ。
 
従来から暫定助成措置について態度を留保していたフランスが賛成に回れば、反対の5ヶ国を除く国々の支持で特定多数決による可決が可能と見られていたが、フランスは「ECが提案している助成対象船種(コンテナ船、プロダクト・ケミカルタンカー)だけでは、イタリア、ドイツ、スペインの造船業にメリットはあってもフランス造船業にメリットはなく、LNG船を加えるならば助成規則案に賛成する」との立場を明らかとしたものの、各国の支持がなく、LNG船を含まない原案への賛成が期待できない状況となったため、議長は採決を見送り、結論を先に延ばしたとされている。なお、イタリアも助成対象船種へのフェリーの追加を主張したものの、最終的には原案賛成に回ったとされている。
2.13 LNG船追加TBR調査に関するKSA意見書(2002年2月)
(1) 意見書の位置付け
EU造船工業会協議会(CESA)からの提訴に基づき、欧州委員会(EC)が現在進めている貿易障壁規則(TBR)による韓国造船助成に関する調査結果の見直し作業に関し、韓国造船工業会(KSA)の意見を欧州委員会に述べるために作成されたもので、KSAの委託により大手弁護士事務所であるCoudert Brothers LLPが取りまとめ、ECに提出したもの。
 
ECでは、これまで1997年1月1日〜2000年11月30日を調査対象期間とした韓国造船助成に関するTBR調査を実施しているが、2000年12月1日〜2001年12月30日を対象に貿易上の悪影響についての調査結果を見直すことを2001年12月に決定し、この旨KSAに通知しており、今回のレポートはこの通知への反応としてKSAから提出されたものである。
(2) 意見書の概要
「問題とされている韓国の助成とEU造船業の業況の間には何の因果関係もなく、追加調査で如何なる結果が出ようとも、韓国の造船助成とは無関係である。」と主張。
 
特に、韓国造船助成による悪影響からのEU造船業の保護のために検討されている暫定助成措置の対象へのLNG船の追加に関し、2000年11月30日までのTBR調査で貿易上の悪影響がないとされた船種について、その後の韓国造船助成について正当で法的にも問題のない情報がないままで、追加調査対象期間の韓国造船助成がEU造船業に悪影響を及ぼしたという因果関係を法的に立証することは不可能と主張。
 
こうした主張の裏付けとして、以下の分析を行っている。なお、これらのベースとなる統計資料及び報道資料として24の資料が添付されている。
 
1)問題とされている韓国の造船助成はEU造船業に貿易上の悪影響を与えていない
- 2001年に韓国の受注量は大きく減少したが、韓国のトンあたりの船価は上昇している
- EU造船業はRo−Roフェリーなど特定市場では競争力を維持している(2001年に当該市場でシェアを延ばしたのは日本であることを示す統計資料を添付)
- 2001年に最も受注を延ばしたのは日本である
- EUの大手造船所数社は利益をあげている
- EU造船業の抱える問題は韓国が建造する船舶との競合により引き起こされていない
 
2)EU造船業への貿易上の悪影響について、韓国造船助成との因果関係を立証できない
- 2000年12月1日〜2001年12月30日の間の韓国の造船助成に関する情報もないまま因果関係は立証できない
 
3)EU造船業は以前より高い助成率(最大16%)の船価助成の再導入を意図している
- EU造船業は助成に頼るのではなく、自らの欠点の克服に努めるべき
- LNG船への船価助成の供与は欧州にLNG船市場を残しておくための措置である








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