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4.7 海事産業に対する金融
 海運・造船産業に提供されている各種金融の便宜は、海事国家を志向するマレーシアの悲願にふさわしく、自国商船隊と造船業の能力拡充を狙ったものである。第1に高リスクから、第2に業界に対する理解の不足から、市中銀行の大半が船舶金融をためらっているために、金融の需給ギャップを埋める上で、バンク・インダストリとEXIM Bankが重要な役割を果たしてきた。両行は優遇金利での各種融資や融資関連援助とともに、シッピング基金設立によるベンチャーキャピタル投資を通じて、この役割を全うした。
 バンク・インダストリは資本集約的ハイテク産業を支援するために1979年に創立されたが、発足以来、造船業を発展させようとする政府の方針実現の一翼を担ってきた。同行は運転資本、資本支出の両面で融資を提供し、造船所の新造船・修繕船事業を支援し、一方、造船業インフラと設備のグレードアップ、近代化を図っている。
 
バンク・インダストリが提供する融資の種別
[1] 海運
1.新船腹建造融資−マレーシア国内建造
 国内船主が新造船をマレーシア国内造船所に発注するように奨励することを意図した固定期間貸付制度
2.新船腹建造融資−海外建造
 国内造船所が規模・技術能力の面で建造できないような特殊な船舶を海運会社が海外から輸入しなければならない場合もある。その際は当該海運会社が海外で融資を得られるようにバンク・インダストリ&テクノロジー・マレーシアが債務保証を与える。同行はまた、当該船舶がマレーシアの外貨獲得に寄与できる性格のものであれば、海外建造船の購入代金の直接融資も考慮する。
 
[2] 造船
1.造船所資本支出支援制度
 造船所が新造船・修繕船能力を増強できるように、この制度は生産性と効率の改善に役立つような新機器の購入により、造船所のインフラ整備を奨励するものである。
2.修繕船割引融資
 国内造船所が内外の船主から修繕船工事の受注を得られるように、バンク・インダストリ&テクノロジー・マレーシアは12ヶ月以内の期限でリボルビング方式により運転資金を貸し付ける。
3.小型艇建造
 造船業界の経験に鑑み、同行は国内の小型艇、特に輸出向けを主体とするプレジャーボート等の建造事業を対象に、資金支援制度を発足させた。
4.性能保証金
 性能保証金により、船舶または構造物の建造中および引渡し後特定の期間について、その技術的性能が保証される。
 
EXIM Bankが提供する融資の種別
 買手信用制度は、マレーシア製品、特に資本財の輸入を促進するために、外国の購入者または融資機関に直接供与される融資である。融資の実行は海外の商談に応札するマレーシアの輸出業者または請負業者に対して直接行われる。EXIM Bankの融資条件は下表の通り。
 
表18 EXIM Bankの融資条件
目的 インフラ設備、プラントならびに建物の新設、グレードアップまたは拡張、および機械設備等の固定資産の購入
融資比率 契約または工事価額の85%を上限とする融資
最低限度額 契約価額200万リンギットまたは外貨の相当額以上
融資対象 1.サプライヤー/請負業者はマレーシア国籍者支配下の国内法人でなければならない。
2.国内生産分30%以上の要件を満たす資本財、製造業製品、工事およびサービス
期間 2年以下の猶予期間を含む10年を上限とする
利率 銀行の資本コストに利鞘を加算した率
使用通貨 米ドルまたはその他希望の通貨
返済方式 四半期毎または半年毎
融資実行先 サプライヤーに直接
担保 ・EXIM Bankが容認する銀行保証
・政府保証
・その他EXIM Bankが容認する担保
 
 海運業振興を目的に創設されたシッピング基金は、過去数年間にわたって各企業に拠出され、2000年12月末現在、海運各社への融資残高合計は15億リンギットを超える。さらに2000年10月末に発表された2001年度予算案で、海運業界に10億リンギの資金が割り当てられることになっており、すでに7社に対する総額3,930万リンギの融資が決まっているほか、2001年末までに融資認可額が1億リンギに達する見通しである。新設基金による融資対象は、国際海運業の運営を目指す起業家。融資の申請条件は、70%以上の株式をマレーシア人が所有する上場企業、またはマレーシア人が100%を出資する未上場企業となっている。
 だが、中にはデフォルト(債務不履行)に陥り、返済のめどが立たない企業があるという。基金を管理する政府系金融機関バンク・インダストリの完全子会社グローバル・マリタイム・ベンチャーズは、デフォルトに陥った企業の船舶を数隻押収している。マレーシア船主協会(MSA)は、政府による新たな資金を歓迎しつつ、マレーシア企業だけを拠出の対象とし、資金拠出先の決定過程を明らかにするよう求めている。
4.8 造船関連工業会
マレーシア造船工業会(AMIM)
 マレーシア造船工業会(Association of Marine Industries of Malaysia ・ AMIM)は、1984年に造船・修繕業者協会(Association of Shipbuilders and Repairers of Malaysia ・ ASROM)として発足した。その後、海事産業全般に活動を広げるため、1997年にAssociation of Marine Industries of Malaysia と名称を変更した。変更に伴い、ASROM時代は、主に造船・修繕の料金の標準化を業務としてきたが、AMIMとなってからは、政府行政、法制度、海事産業の事業拡大、専門性の向上なども事業の一環とすることとなった。また、造船・修繕だけでなく、エンジニアリング、レジャーボートなどの海事産業用特殊素材・製品・サービスや、マリーナ開発などの分野も包括することとなった。
 
AMIMの設立趣旨は以下の通り。
◆マレーシア海事業界の利益の保護
◆世界標準規格に沿ったマレーシアの業界技術規格を作成し、改正していく
◆会員同士の対話の場をもち、業界の発展のための意見をまとめる
◆情報提供、その他のサービスの提供を行う
◆会員企業、関連企業同士の協力関係構築を促進する
◆経営や投資などに関する助言、および研究開発活動の促進を行う。
◆人材を育成するために、業界に関連したカリキュラムを紹介し、また業界に適した人材に対して教育を続けるための奨学金やローンを提供する
◆セミナー、ワークショップ、展示会、視察、コンペ、商談会などを企画する
◆政府機関などに対して、業界の代表として交渉を行う
◆業界共通の事項に関してのまとめ役となる
◆海事業界の業界規約を作成する
◆争議や交渉において会員を代行する
◆会員が利用するための"資産"を、工業会として設立、賃貸、購入する
◆会員の合意があれば、会員の争議・交渉の仲介をつとめる
◆海事産業の発展のための、規則、法制度の策定に関し、連邦政府あるいは州政府に提案を行う
 








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