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4.4 造船業に影響を及ぼす要因
 マレーシアにおける船腹需要は以下の要因から生じる。
[1]老齢により解撤されたり喪失した船舶の補充
[2]海上荷動量の伸びによる船腹増強
[3]トレード・パターンの変化による船腹増強
[4]港湾、船腹両面における技術的変化
[5]防衛関連需要
[6]石油ガス産業の海洋開発関連の支援サービス
[7]レジャー
[8]政府の方針
 上記[1]〜[4]の要因に対応するための造船活動は、国内造船能力の制約から国外に依存する傾向が強くなっている。しかし[5]の防衛関連と[6]の海洋開発支援サービス関連の対応では、マレーシア国内の造船業がその役割を果たしている。防衛関連では主として、巡視艇、巡視船などで、これらは国内で建造されている。海洋開発支援サービス関連は補給船、タグ、母船、調査船などが需要の対象になっている。
4.5 造船業の成長阻害要因
 造船産業の成長を阻害する要因で、有効な対応が必要とされる要素がいくつかある。2001年10月に開催された第25回アジア太平洋造船専門家会議でマレーシア造船業の成長阻害要因として取り上げられた問題と今回のアンケート調査結果から以下のように分類される。
 
[1] 造船能力の過剰問題
 マレーシア国内の造船所の大半は設備稼働率が50%に満たず、新造船だけでは生存がおぼつかない。従って、マレーシアでは造船所が修繕船工事も行うのが通例である。造船能力が過剰なため、造船所は限られた国内船受注を奪い合い、そのため新造船価が低迷している。この状態が長引けば、生産性の低い造船所は存続が脅かされる。今回、実施したアンケート調査で2000年の受注実績を見ると、国内船向けの修繕が造船も含む全体の受注隻数の90%を占めていることからも判断される。
 
[2] 資機材調達と支援産業
 マレーシアでは舶用機器サプライヤーの数が非常に限られているので、船舶の機器やぎ装品などは、その大半を輸入に依存しなければならない。今回実施したアンケート調査では、全般的に欧米日のメーカー品が海外または国内の代理店から調達されていることがわかり、その事実を裏付ける結果となった。しかしながら、一部品目については国内での調達が可能となっている。第25回アジア太平洋造船専門家会議で指摘された国内で調達可能な品目やサービスは以下の通りである。
◆塗料
◆室内調度品/防火扉/断熱材
◆軟芯パネル材
◆小型プロペラ/軸用鋳造品
◆小型配電盤
◆電気メッキ設備
◆トイレ/洗面所ユニット
◆溶接用電極/亜鉛陽極
◆推進軸
 
 AMIMによると、現在、マレーシアではケーブルや鋼板の一部も国産化の努力が進められているほか、エネルギー源ガス用の箱型断熱タンクの製造が国内で進められている。この箱型断熱タンクは日本の造船企業、三菱重工と三井造船が提携して生産している。また、国内塗料メーカーも多角化を進めて、舶用塗料も生産するようになってきた。国際的塗料メーカー3社がマレーシア国内で舶用塗料生産設備を解説しているが、そのうち1社は日系の中国塗料で、同社の進出は関連工業を分化させる刺激になっている。
 
[3] 設計技術
 今回のアンケート調査で、大半の造船所が研究開発部門を保有せず、かつ設計業務を外部に委託している事業者が多いことからも判断されるように、大半の造船所が船舶を建造する能力はあっても、設計能力を欠いている。小規模造船所ではマレーシア国内やシンガポールの設計会社から基本設計を購入するのが通例である。すなわち施工図面がないということであり、これが最終的な品質、建造期間、コストに跳ね返っている。施工図面があれば造船所はよりよい環境で部品を事前に加工し、取り付けだけを船上で行うことができる。
 比較的大規模な造船所では自前の設計部門があって、タグ、タンカー、貨物船などの設計を行っている。マレーシア造船工業(MSE: Malaysia Shipyard & Engineering Sdn Bhd)やPSC Naval Dockyardなどは、先行投資をして造船専用の高度なコンピュータ設計・情報システムを開発し、それぞれTRIBON、FORANというシステムを使用しているが、他の造船所は大半がAUTOCADを利用している。
 自社内に設計部門を置くことが困難な理由に以下が挙げられる。
◆リピート受注の不足
◆経験豊富な人材の不足
◆設計ツールと手法に継続的に投資して、グレードアップを図る必要性
◆造船所間の戦略的アライアンスの欠如
 
[4] 建造技術
 マレーシアの造船所は大半がブロック建造方式を採用している。しかしながらブロックの寸法と先行ぎ装の程度は、設備の整備状況に応じて造船所間でばらつきがある。この問題の解決も詳細設計図面がどの程度準備できるかにかかっている。
 品質、精度、迅速性、コスト、ロスの削減などの面で改善を図るため、中大型造船所ではコンピュータ制御のNC工作機械を使用している。
 管部品の図面があれば、より高品質の管類を迅速に加工できる。中大型造船所ではパイプ巻枠の生産にソフトウエアや管曲げ機を導入している。溶接技術も半自動溶接機やセラミック裏当ての使用により改善されている。
 
[5] 造船労働力
 第25回アジア太平洋造船専門家会議で発表された造船に従事している労働力は推定で約15,000名である。今回のアンケート調査では回答のあった23社における直接従業員数は総計で4,456人であり、他社や下請け労働者の数を加えるとこの推定値は妥当なものであると考えられる。労働力は高齢化が進み、汚い、危険、長時間労働という劣悪なイメージから、若年労働者を引き付けることが難しい。また、マレーシアの造船所では熟練労働者と専門技術者が不足しているために、工数とコストの上昇を招いている。労働者の技能不足の一因は、大半が技術教育機関で体系的な教育を受けたのでなく、職場での実務経験のみに頼っているところにある。訓練機関において、具体的な海事産業のニーズに対応した課程の数が少ないことも、マレーシアにおける造船産業の趨勢と発展の制約要因となっている。このことは、他産業と比べて、労働者、とりわけ技術者の求人をむずかしくしている。
 造船では円滑な労使関係もきわめて重要である。マレーシアでは造船所と企業内組合の関係が良好で、争議による操業停止が生じたことはない。
 
[6] 造船市場におけるシェア
 船腹需要はグローバルな性格のものであり、その充足には何の障壁も存在しない。船腹需要には循環要因が強く、造船国は、受注の臨界質量を確保する上で、国内市場が活況を呈していれば有利なことが多い。例えば、一部の船主は国内造船所にしか発注しない傾向がある。マレーシアでは一般に国内造船所は政府や政府関係機関の発注に恵まれることが多い。マレーシア政府系銀行から融資を受ける船主も、国内造船所に発注するよう奨励されている。しかし船型面での制約から、船主は外国造船所に発注する傾向が強い。
4.6 政府の造船業振興策
 政府からの補助金、税制上の優遇措置など直接の金銭的援助はない。間接的な政府の援助としては、政府関係船舶の優先発注及び後述する政府系銀行である産業銀行による低利融資が存在する。1997年のアジア経済危機の際には、造船企業の倒産を回避するため海軍の船舶が多く発注された。
 造船業育成の観点から、政府は産業マスタープランに基づいて、以下の戦略を実行に移すタスクフォースを発足させている。
[1] 海運部門と新造船・修繕船部門の発展の調整を図る。
[2] 造船業の競争力強化のために合理化・統合計画を実施する。
[3] 造船業の発展を促進するため有効な技能・人材育成計画を策定する。
[4] 適切なインセンティブを導入して国内造船所に対する安定需要の醸成を図る。
[5] 生産性向上、生産コスト削減のために船舶設計の標準化を促進する。
 
 以上の戦略に基づいて、同タスクフォースは以下を検討、実行に移した。
[1]海事産業調整委員会の設置
 海運、造船は相互に関連する部門であるから、この委員会は海運、造船に係わりのある各種政府機関相互の円滑な調整を促進する。
 
[2]合理化と統合
 タスクフォースは、外国造船所との熾烈な競争を克服するために、業界の合理化と統合の問題を検討した。その結果、同一地域内に立地する造船所が、効率化のために事業を互いに調整することを勧告した。タスクフォースはまた、業界の合理化を促進するために、適切なインセンティブを検討、導入することも勧告した。
 
[3]市場の需要を刺激
 タスクフォースは一定の範囲に含まれる船舶に対して輸入税を付加するなど、各種の措置を検討した。また、船主と船舶運航者に優遇利率での融資と適切な課税優遇措置も提案している。
 
[4]コスト削減措置
 タスクフォースはまた、国内船の設計標準化の欠如が国内新造船コストの上昇につながっていることを認識した。国内造船事業者は設計標準化を促進するよう奨励されている。
 コスト削減について、タスクフォースはさらに、新造船及び修繕船活動に使用する原材料と部品に対する輸入税を政府が全面免除することを勧告している。
 








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