日本財団 図書館


はじめに
 ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部では、アメリカ合衆国のみならず、南北アメリカ大陸の造船・海運情報の収集、分析に当たっている。そこで、今回は、カナダの造船業に焦点を当て、現状と課題をまとめてみた。
 現在、カナダの造船業は非常に衰退しており、世界におけるシェアは総トン数ベースの受注量で0.1%にも達せず、従業員数も3,000人強に過ぎない(もっとも、従業員数は工事量に比例して大きく変動する特徴があるが)。しかし、過去、戦時中という特殊な状況下であったとはいえ、カナダが世界第4位の造船国であったことは余り知られていない。また、カナダはOECD造船部会に恒常的に出席しているメンバーでもあり、このような国の造船業の現状や課題についての情報は、我が国の造船政策を考慮する上で有用であると思われる。
 カナダでは2000年の政権交代を期として、造船政策が見直されようとしている。新たに産業大臣に就任したブライアン・トービン氏は、造船所が多く立地しているニューファンドランド州知事を務めていたことがあり、造船業との関わりは深い。トービン産業相は、業界と労組の代表からなる委員会を組織し、カナダの造船政策の見直しを依頼した。ただし、見直しに際しては「直接助成は論外」という条件を付けた。今般、委員会から「現状打開:カナダ造船業」と題する報告書が提出され、その内容が公開された。
 本報告書では、この「現状打開:カナダ造船業」を参照しつつ、当部独自の調査による資料の追加、データの精査等を行い、カナダ造船業の現状と課題についてまとめてみた。なお、本報告書では、当然ながら通貨単位としてカナダドル(CAD又はC$)が多用されている。1カナダドルは、概ね1米ドルの3分の2である(2001年5月現在1C$=約80円)。また、各種の資料で「nicheな市場」という表現が多用されていた。そのまま訳せば「隙間市場」あるいは「あるべき市場」ということになろうが、意味が通りにくいので文脈に応じ「得意な市場」「専門市場」というように訳している。本報告書を読まれるに当たっては、以上を参考にされたい。
 最後に、トービン産業相が「現状打開:カナダ造船業」を公開する際に述べた言葉の一説を紹介しておく。
 「カナダ造船業は死に絶えた産業でもなければ死につつある産業でもなく、またそうあってはならない。」 (ブライアン・トービン)
 
平成13年5月
ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部
( (社)日本中小型造船工業会共同事務所 )








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION