日本財団 図書館


シンガポール経済の概況(99年)
【1】経済全般
(1)GDP成長率
99年の実質GDP成長率は前年比5.4%増となった。外需の伸び(前年比6.5%増)が経済回復の源泉となったが、内需も前年比6.7%増と回復した。アジア経済の回復、国内の雇用調整の一服感、株価の上昇等により、国内消費は急速に上向いている。
(総需要の伸び6.6%増に対する外需の寄与度は4.8%ポイントであり、内需の寄与度は1.8%ポイントである。)
表1 実質GDP成長率の推移(単位:%)
1970 1980 1990 1997 1998 1999
実質GDP成長率 9.4 7.4 9 8.4 0.4 5.4
 
注1) 1970年及び1980年の数値は、それぞれ70年代、80年代の平均成長率
(2)産業部門別GDP成長率
製造業が前年比13.3%増と成長の原動力となった。世界的な需要拡大のあった電子製品・部品部門、工場の新増設が続いた化学品部門が高い伸びを達成した。非製造業では運輸通信業が好調であったほか、卸・小売業やホテル・レストラン業が98年のマイナス成長から大幅に回復した。アジア経済の回復基調が強まり、域内における運輸(海上・航空輸送)、観光、貿易、商業等が大幅に増加した。他方、金融・サービス業や建設業はいまだ本格的な回復基調に至っていない。建設業は、公共投資支出の抑制や、民間部門を中心とする設備投資の低迷により前年比11.8%のマイナス(四半期ベースでは98年第3四半期より6期連続のマイナス)となった。
表2 産業部門別実質GDP成長率の推移(産業部門別)(単位:%)
1979-89 1997 1998 1999
製造業 6.9 4.5 -0.6 13.8
金融・サービス業 10.6 18.3 -8.1 0
商業・貿易 6.2 6.9 -0.8 3.6
運輸・通信業 9.4 9.1 5.5 7.1
建設業 4.4 15.3 4.4 -11.8
全産業 7.4 8.4 0.4 5.4
表3 産業部門別実質GDPの推移(1990年価格)
  1970 1980 1990 1997 1998 1999
製造業 3,292 9,257 18,010 28,400 28,239 32,133
24 28 27 24 23 25
金融・サービス業 2,562 6,038 15,323 30,054 29,550 29,560
19 18 23 25 25 23
商業・貿易 3,245 6,634 12,576 23,518 22,572 24,039
23 20 19 20 19 19
運輸・通信業 962 3,820 8,742 15,833 16,703 17,891
7 12 13 13 14 14
建設業 1,408 2,517 3,585 10,514 10,976 9,685
10 8 5 9 9 8
その他 2,413 4,615 8,228 11,516 12,276 13,448
17 14 13 9 10 11
全産業 13,882 32,881 66,464 119,835 120,316 126,756
100 100 100 100 100 100
 
注1) 1999年は、暫定値
注2) 各欄中、上段はGDP額(単位:百万Sドル)、下段は全産業に占める比率(%)
 
表4 総需要の伸び及び寄与度(需要項目別)(単位:%)
  前年比伸び率 寄与度
97年 98年 99年 97年 98年 99年
内需 最終国 消費支出 政府消費 7.1 7.7 3.3 0.2 0.2 0.1
民間消費 6.2 -2.1 6.2 0.8 -0.3 0.8
  6.4 -0.2 5.6 1 -0.1 0.9
総固定資本形成 政府投資 22.9 7.2 0.2 0.5 0.2 0
民間投資 81 -9.9 -4.7 0.9 -1 -0.5
  10.6 -6.7 -3.6 1.4 -0.8 -0.5
内需要 8.3 -3.1 1.6 2.4 -0.9 0.4
在庫品増加 1.7 -3.9 4.1 0.5 -1.2 1.4
(合計) 10.2 -7.3 6.5 2.9 -2.1 1.8
外需 6.6 -4.4 6.7 4.7 -3.2 4.8
総需要 7.6 -5.3 6.6 7.6 -5.3 6.6
【2】雇用・賃金
(1)概況
98年のアジア経済危機により外資系企業を中心とする生産調整や雇用調整が行われた。シンガポールの雇用環境は急速に悪化し、解雇者は2万9000人に達し、98年9月時点での失業率は4.5%となった(97年の失業率(季節調整済)は1.8%)。雇用調整の動きは沈静化した感もあるが、99年現在の失業率は4.0%の高水準にある。
98年11月、政府は国際競争力の維持と一層の雇用調整を回避するため、総賃金コスト15%カットを柱とするビジネスコストの削減策を発表し、全国労働組合会議(NTUC)もこれを容認するなど、雇用重視の姿勢を見せた。99年後半には景気回復感が鮮明となり、国内雇用環境が大幅に改善しており、再び人件費の上昇を懸念する声が強まっている。
表5 シンガポールの労働事情の推移
  1995 1996 1997 1998 1999
労働力 労働人口(年中央値、1000人) 1,749.30 1,801.90 1,876.00 1,931.80 1,976.00
労働力平均年齢(才) 35.4 36.5 36.9 37.4 37.4
就労者 就労者数(年中央値、1000人) 1,702.10 1,748.10 1,830.50 1,869.70 1,885.90
失業者 失業者数 年平均(1000人) 34.9 37.3 34.8 62.7 69.5
12月、季節調整値 36.5 34.7 37.8 84.3 59.8
失業率 % 年平均(1000人) 2 2 1.8 3.2 3.5
12月、季節調整値 2 1.8 2 4.4 2.9
解雇者 解雇者数(1000人) 8,788 10,956 9,748 29,086 14,622
賃金 名目(前年比、%) 6.4 5.8 5.7 2.8 2.7
実質(前年比、%) 4.5 4.3 3.6 3 n.a.
労働コスト 単位労働コスト(全産業)(前年比、%) 2.8 2.5 0.8 2.5 -10.2
単位労働コスト(製造業)(前年比、%) 2.1 2 0.8 -1.6 -11.2
 
注1) 解雇数は従業員数25名以上の企業を対象とする。
注2) 実質賃金は消費者物価上昇率をもとに算出する。
注3) 賃金は賞与を含む。自営業者は含まない。
表6 産業部門別雇用者数の変化の推移
  1994 1995 1996 1997 1998 1999
製造業 11,600 12,500 -7,700 3,700 -27,600 4,600
金融・サービス業 16,000 18,100 18,400 26,000 6,500 23,100
商業・貿易 13,400 14,100 8,900 12,700 -13,500 7,200
運輸・通信業 2,600 9,300 6,200 6,200 -500 4,000
建設業 13,100 40,600 52,800 45,800 -4,700 -18,300
その他 15,400 14,400 24,000 25,900 16,300 16,300
全産業 72,100 109,000 102,600 120,300 -23,400 22,300
 
注1) 1999年は暫定値
(2)外国人労働者に対する政策
外国人労働者(未熟練/半熟練労働者:月額賃金2000Sドル以下)の雇用は厳しく管理されている。また、業種毎に総労働者数に占める外国人労働者の比率・上限が決められており、外国人労働者の雇用の際には政府に人頭税(レビ)を支払う義務を負う。ただし、99年1月から国際競争力確保の観点から人件費削除を目的とした人頭税の圧縮が行われている。
表7 外国人労働者数の上限と人頭税(1999年1月1日改訂)
産業部門 外国人労働者数の上限 人頭税(月額)
改正後 改正前
製造業 全労働者の50% 240Sドル:最初の40% 330Sドル:最初の40%
310Sドル:残りの10% 400Sドル:残りの10%
船舶製造・修繕業 シンガポール人労働者1人につき3人まで 30Sドル:熟練工 100Sドル:熟練工
295Sドル:未熟練工 385Sドル:未熟練工
建設業 シンガポール人労働者1人につき5人まで 30Sドル:熟練工 100Sドル:熟練工
470Sドル:未熟練工 470Sドル:未熟練工
サービス業 全労働者の30% 240Sドル 330Sドル
家事労働者   345Sドル 345Sドル
【3】物価
 消費者物価指数は、98年通年ベースで12年ぶりに、0.3%下落した。消費者物価は98年に通貨・経済危機による消費者における購買意欲の減退と、景気低迷下での過当競争、公共料金の引き下げ等を要因として12年ぶりに下落したが、99年第2四半期より物価は上昇に転じている。
表8 消費者物価指数上昇率(%)の推移(前年比)
  ウェイト 1996 1997 1998 1999
食料(調理食を除く) 1,517 1.7 2.5 -0.9 1.3
調理食 1,478 2.5 1.6 1.4 0.5
衣料 606 0.5 0.7 -1.5 0.6
住居 2,341 0.5 2.3 2 -0.9
運輸・通信 1,583 0.4 3.9 -5.6 -0.4
教育 573 3 1.5 3.6 4.3
医療 280 2.3 3.7 4.5 0.9
その他 1,622 1.8 0.2 -0.7 0.7
全体 10,000 1.4 2 -0.3 0.4
 
注1) 93年以降の指数の算定に使用されているウェイトは、1992/3年の消費パターンに基づき設定されている。
【4】貿易・国際収支
 99年の貿易の特徴としては、4月に輸出及び輸入がそれぞれ8ヶ月及び14ヶ月ぶりにプラスに転じ、経済危機以降、低迷を続けていた貿易の回復へのターニングポイントとなったことが挙げられる。
 輸出は、前年比5.7%増となった。増加要因としては、アジア向け輸出(総輸出の57.7%を占める)が前年比10.7%増と、通貨危機発生時の97年実績に匹敵するまでに急回復したことが挙げられる。米国向け及びEU向けはそれぞれ1.9%、1.3%と微増に留まった。
 一方、輸入については、前年比10.8%増となった。輸出需要に対応するための原材料等の重要回復や国内消費が回復したことが挙げられる。
 この結果、99年の貿易収支は、191億5,800万Sドルの黒字と、98年の247億8,800万Sドルから黒字幅が減少した。
 貿易外収支は、運輸、観光、商業等のサービスに対する大幅な需要増等から黒字幅が大幅に拡大した。
表9 国際収支の推移(単位:百万Sドル)
区分 1995 1996 1997 1998 1999
貿易収支(A) 1,384 3,136 1,660 24,788 19,158
  輸出 167,896 177,680 186,708 185,085 196,004
輸入 166,512 174,543 185,048 160,297 176,846
貿易外収支(B) 20,333 17,974 25,214 12,381 188,838
移転収支(C) -1,255 -1,513 -1,762 -1,982 -1,599
経常収支(D=A+B+C) 20,462 19,597 25,112 35,188 36,398
資本収支(E) -6,811 -7,525 -19,907 -36,049 -29,761
SDR(F) - - - - -
誤差・遺漏(G=H-D+E+F) -1,477 -1,666 6,650 5,841 684
総合収支(H) 12,174 10,407 11,856 4,981 7,321
図1 Sドルの交換レートの推移
z0001_10.jpg
【5】運輸関連産業
(1)旅行者の動向
99年の外国人シンガポール来訪者数は、対前年比11.5%増の696万人と前年に比べて大幅に増加し、98年の減少をほぼ相殺している。来訪者は、ほぼ全地域とも増加している。インドネシアに次ぎ外国人来訪者の多い日本からの来訪者は、円高や他リゾート地へのトランジットなどにより対前年2.0%増加している。
表10 シンガポールへの主な国・地域別来訪者数の推移
  1997 1998 1999 1997 1998 1999
千人 対前年比(%)
日本 1,094.0 843.7 860.7 -6.6 -22.9 2.0
ASEAN 2,351.2 1,887.6 2,224.0 2.7 -19.7 17.8
中国・台湾(注1) 734.9 655.6 690.4 -2.7 -10.8 5.3
オーストラリア 381.5 427.2 473.9 8.5 12.0 9.1
英国 333.2 357.9 401.5 6.6 7.4 12.2
米国 376.4 342.6 351.5 0.6 -9.0 2.6
全来訪者数 7,197.9 6,242.2 6,958.2 -1.3 -13.3 11.5
 
注1) 香港を含まない。
注2) 陸上交通を利用したマレーシア人旅行者は含まない。
(2)貨物輸送
[1]航空輸送
航空貨物取扱量は、対前年比17.2%と大幅増加し、150万トンとなった。
表11 シンガポールにおける航空機による貨物取扱量等の推移
  単位 1970 1980 1990 1997 1998 1999
貨物取扱量 千トン 21 181.8 624.5 1339 1288.1 1509.3
  荷揚げ 千トン 8.2 90.7 654.3 697.9 654.3 763
荷積み 千トン 12.8 91.1 633.8 641.1 633.8 746.3
総着陸回数 千回 17.1 38 51.7 90.2 86.6 87.2
 
[2]海上輸送
海上貨物やコンテナ取扱量の成長が緩やかであったにもかかわらず、シンガポール港の、寄港船腹量は対前年比2.3%増の8億7,710万総トンと増加し、また、コンテナ取扱量も98年の1,516万TEUから1,594万TEUに増加した。シンガポール籍船腹量は、99年に入っても引き続き増大し、対前年比7.8%増の2,375万総トンとなった。バンカー油の供給量も、98年の1,800万トンから増加し、99年は1,889万トンとなった。
表12 シンガポールの海上貨物取扱量等の推移
  単位 1970 1980 1990 1997 1998 1999
海上貨物取扱量 MFT 43.5 86.3 187.8 327.5 312.3 326.0
  一般・ばら積 MFT 10.5 33.8 197.7 185.1 197.7 201.6
石油ばら積 MFT 33.0 52.5 129.8 127.2 129.8 124.4
コンテナ取扱量 千TEU - 968 5,224 14,136 15,136 15,945
入港船腹量(注2) 百万総トン - 241.2 491.2 808.3 857.7 877.1
 
注1) 1999年は、暫定値。
注2) 入港船腹量は、全ての国際航海に従事する船舶と75総トン以上の旅客船を含む。
注3) MFT:Million Freight Tonnes
(3)造船・舶用工業
海事産業を含む輸送機器産業の生産額は、海事分野の減少が、航空機整備の増加を打ち消す形となり、前年比3.4%増となった。
船舶修繕業、船舶製造業及びオフショア部門からなるシンガポール海事産業の99年の総売上高は、対前年比19%減の31億2千万Sドルであった。
船舶修繕部門の売上は、対前年比17.5%増の21億6千5百万Sドルで全売上の69%を占めた。シンガポール海事港湾庁によれば、3,787万総トン、4,552隻の船舶が修繕のためシンガポール港に寄港。これは、98年に対して総トン数ベースで940万トン、隻数ベースで1,651隻の大幅増加となった。
新造部門の売上は、対前年比52%減の4億3千8百万Sドルに減少した。隻数ベースでは対前年27隻減の70隻、総トン数ベースでも対前年比約12%減の114,112総トンとなった。
オフショア部門の売上は、対前年比46%減の5億1千7百万Sドルであった。
シンガポール海事産業の昨年の全労働者数は、31,800人から30,700人に減少した。労働者一人当たりの付加価値額は、0.03%減少して32,800Sドルとなった。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION