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2. ロシア及び周辺の基盤的環境変化
2.1 ロシアの政治・社会の変化
(1)国家体制と連邦管区
 ロシア連邦は、現在21の共和国、49の州、6つの地方、1つの自治州、10の自治管区、モスクワおよびサンクト・ペテルブルグ両市の89の連邦構成主体からなる。その構成原理は、多民族国家としての民族自決の原理と地方自治の原理である。連邦憲法では、全ての構成主体の同等権利を謳っているが、共和国については連邦条約および個別の権限区分条約に対して事実上の国家主権が認められていることを留意しておく必要がある。ロシアは、その憲法第1条で「共和制統治形態をとる民主的連邦制法治国家」と定義され、連邦大統領、連邦会議及び国家会議の二院制をとる連邦議会、ロシア連邦政府、及びロシア連邦裁判所が、国家権力行使機関である。ペレストロイカ以後エリチン政権下では、これらの国家権力行使機関間の激しい権力闘争、中央・地方政府間の不透明な権限確執があり、移行路線の総決算としての金融危機と相俟って、ロシアの政治社会の将来像は曖昧模糊たる状態にあった。
 しかし、エリチン政権の凋落と、プリマコフ政府のルーブル切下げ等の危機対策、国内産業の甦生策が、世界的な石油価格の高騰に助けられて、ロシア経済の行き先に微かな明かりが見えるようになった。エリチン派閥とサンクト・グループとの権力闘争は今なお熾烈ではあるものの、IMF忠誠路線からの決別、法の支配の下での強いロシアの再生を掲げるプーチン大統領の登場は、中央権力の強化策、行政組織改組の実施、エネルギー政策の見直し、鉄道省の権限縮小などロシアの体制移行路線が新しい段階に入ったことを印象付けている。
 2000年に施行された連邦制改革では、大統領府地方分局の広域単位として7つの連邦管区(図2.1)を導入し、各管区に大統領直属の管区大統領代表人を任命して、地方に対する中央のコントロールを強化している。ロシアでは、元々、基本的な大陸棚資源開発権や漁業権は連邦政府の所管ではあるが、エリチン時代にしばしば見られた、国益を損じかねない外国資本の誘致や地方主義に基づく地方専断型の乱開発を抑え、ロシア国体としての利益を保護する体制が出来上がりつつあると言える。このことにより、地方の資源開発や地域振興に必要な輸送路の将来にも、より妥当で明確なイメージを描くことができるようになり、海の幹線である北極海航路と地方とを結ぶ支線開発のシナリオや、内陸水運、鉄路、陸路、および空路を連結する総合輸送システムの計画も見えてきた。
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図2.1 ロシア連邦管区
(2)地域間格差
 市場経済導入後では、物流の様態を検討する上で、地域格差は重要な因子となる。連邦主体間には、社会資本の充実度、鉱工業生産、生計等について、大きな格差がある。ロシア誌「エクスペルト」によれば、資本投資誘因から見た地域格差は、法制、社会・経済的安定度、犯罪発生率等の視点から投資リスクが最も低いのはモスクワ市、ノヴゴロド州、カリーニングラード州、ベルゴロド州などであり、資源、購買力、インフラ等投資潜在力の最も高いのはモスクワ市、サンクト・ペテルブルグ市、モスクワ州などであるとされている。1999年度での鉱工業生産上位10地域を図2.2に示す。
 一方、最低生計費に対する実質生計費の比率(1999年)で見た地域格差は、図2.3に示すように、89の地域の7割程度が1付近の値にあるのに、モスクワ市は4.46と飛びぬけて高い。因みに、サンクト・ペテルブルグ市全体としては、1.18である。これは、図2.4に示すような、生活関連諸物価の地域格差が背景にあるからでもある。
 基調としては、ロシア社会の西欧化が進みつつあるものの、首都モスクワ等を除けば、ロシア社会の殆どが、実質的には今なお旧体制から脱し得てないことを示し、ロシア内部の地域間物流が情報を含め双方向性を欠いていることを示唆している。地域格差を縮小し、ロシア社会全般をレベルアップさせることは、強いロシア復興の鍵となっている。
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図2.2 鉱工業産業の地域格差
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図2.3 実生活費の地域格差
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図2.4 物価の地域格差








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