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1.はじめに
 我が国の海上交通の状況は、戦後から昭和40年代後半にかけて飛躍的な発展を遂げ、港湾施設は着実に整備され、船舶の通航隻数も年々増加するとともに大型化が進んでいき、船舶交通は輻輳化の一途をたどっていた。しかし昭和48年の第一次石油ショックや第二次石油ショック等の影響もあり、昭和50年代に入り減速傾向が強まり、船舶交通量はほぼ横ばいの状態となった。近年の船舶交通を質的側面からみると、外航船舶の大型化や専用化、フラッギングアウトの増大、サブスタンダード船の増大、自動化や省力化の推進、海域利用の多様化や競合化等が指摘できる。
 例えば、船舶の大型化や専用化に関しては、近年はコンテナ船の大型化、高速化が進み、現在の最大級のものは6600TEU(全長:347.0メートル 全幅:42.8メートル)であるが、それ以上の超大型コンテナ船のニーズも高まっており、10000TEU(全幅:42.8メートル⇒約51メートル)クラスのコンテナ船の就航も間近となっている(TEU:20フィートコンテナ換算のコンテナ取扱個数の単位。)。また、油流出事故に端を発するタンカーに対する環境保護強化のため、VLCCのダブルハル(二重船殻構造)化が着々と進められている。MARPOL条約(船舶による汚染の防止のための国際条約)では、タンカーに対して平成38年までにダブルハル又は同等構造基準への適合を要求している。
 さらにテクノスーパーライナー(TSL:アルミ合金製の大型軽量・双胴型船体構造で、船体を空気圧力により浮上させ、ウォータージェットポンプから噴出される水の反力で船体を推進させる新形式の超高速船)は、従来の高速船と比べて、輸送時間の大幅な短縮や荒天時での安全航行が可能となり、国土交通省では平成15年度の運航開始(事業化)を目標としている。また、RORO(ロールオン・ロールオフ)船は、貨物をトラックにより直接、搬出入できることから、クレーンを使用した荷役に比べ大幅な荷役時間の短縮が可能である。そのため、モーダルシフト促進のための主力船種として期待が高まっている。
 ところで「航行安全」に関する研究は、日本航海学会の論文集でも数は少なく、「航行安全上からみた航海者のための視覚伝達に関する研究」1、「海上ロータリーにおける航行安全性評価モデルの改良」2、「航行安全支援システムの開発」3、「東京湾の航行安全性向上のための船舶運航について−ネットワーク上を航行する船舶の主観的衝突危険度による評価−」4という標題で、操船者の立場から船舶運航に関連した安全という意味でとらえられている。一方、公的な用語としての「航行安全」は、海上保安庁警備救難部の課の名称として用いられており、海上保安庁組織規則(平成13年1月6日国土交通省令第4号)における航行安全課の所掌事務には、海難の調査、船舶交通の障害の除去、航法や船舶交通に関する信号、港則、船舶交通がふくそうする海域における船舶交通の安全の確保、海難防止に関する計画等の事務がある。したがって、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年12月25日法律第136号)に基づく環境や防災の事務、海洋調査や沿岸調査といった水路の事務等は、所掌事務の観点からみると第一義的には航行安全の範疇ではとらえられていない。
 本稿では、まず我が国における海上交通の安全に関する実態を把握し、安全確保のための法システム、船舶が安全に通航することができる航路、その他の航行安全の周辺領域の諸概念について、政策科学の観点から学際的に論究する。








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