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世界の海上交通網の現状とその安全性
◆ Summary
 本研究は近年の海上貿易の現状と推移について統計を用いて解説している。とくに、海上輸送のグローバル化とコンテナ化という近年のトレンド、およびこれら相互の関係について、それらがもたらす利点と内包する危険性に焦点をあてて論じている。
 
◆ Abstract
 グローバリゼーションというとインターネットを連想しがちであるが、我々にとって最も身近なところにあるグローバル化は海上貿易のグローバル革命である。中でも1966年、コンテナ輸送の登場によってもたらされた劇的な流通コストダウンは産業構造そのものに変革をもたらし、我々のライフスタイルを一変させた。連日のように報道されているグローバルな企業合併も、じつはコンテナ輸送など海上輸送のグローバル化があってはじめて実現可能となっているのである。
 
近年の世界の海上貿易の動向のハイライト(地域別)は以下に示す通りである。
 
・北米:世界経済の牽引役として、今後とも世界をリードして行くと予測される。
・東南アジア:1998年の経済危機から早くも回復し、北米、欧州の成長率を抜き返す好調さを見せた。
・欧州、中南米、アフリカ:どの地域もどちらかと言えば低迷から抜け出せずにいるが、基本的には安定した状況を保っている。
・日本:アジアでは「一人負け」の状況で、極めて深刻な状況が続いている。こうした状況は各指標から明白である。
 
 過去30年間、海上輸送の主力は着実にコンテナ輸送に移行してきたが、次のような特徴が明らかになっている。
 
・トン数では依然としてバルク貿易がトップシェアを保っている。これは、原油、鉄鉱石、穀物などがバルク輸送に適しているためである。
・金額ベースでは、コンテナ貨物が首位に立っている。すなわちパソコン、自動車部品等、付加価値の高い積荷ほどコンテナ化が進んでいることを示している。
 
 コンテナ化率は1980年の23%から2000年の55%(予想)と大幅に増加した。これは巨大コンテナ船のハブ港への一極集中と、ハブ港からローカル港への地域集配という2つの流れを形成しており、グローバル貿易と同時に地域内貿易も活性化させている。
 
 このような背景の下、ジャストインタイム方式など在庫の圧縮を含む操業の効率化、グローバルな企業連携等の合理化が進み、世界経済はますます一体化しつつある。さらに過去5年の間に、スケールメリットを最大限に活用するため6000個以上のコンテナ(TEU)を一度に輸送できる巨大船が登場し、これらを専門に扱うコンテナ港が出現している。
 
 ただし、こうした巨大船が入港できる港は極めて数が限られるため、地震などの天災や破壊活動等により万が一ハブ港が使用不能になった場合でも、他港への回航は不可能に近い。製品コンポーネントなど企業の操業に必要な物資の輸送が混乱することはほぼ確実である。しかも企業が経営をスリム化している関係上(たとえば部品在庫の削減)、このような不測の事態に対して極めて脆弱な体質になっており、操業の一時停止など深刻な事態につながる可能性が大である。さらに、今日では世界経済が一体化しているため、このような事故の影響が瞬時にして地球の裏側まで波及し、世界経済全体に深刻なダメージを与える可能性がある。今日のグローバル経済では、海峡や運河など地理的な要所(チョークポイント:閉鎖された場合でもホルムズ海峡以外は航路変更で対処可能)よりも、ハブ港の閉鎖などシステム麻痺(フォーカルポイント)の方が遙かに深刻な事態を招くと考えられている。
 
 グローバル化がもたらしたもう一つの問題として、便宜地籍船の問題がある。20世紀後半にかけて便宜地籍が一般化し、しかも運行会社の運営構造が複雑化、多国籍化した結果、今日では1隻の船をめぐる利害関係が国際的に複雑に絡み合ってしまい、警察行動、海軍行動などに影響を及ぼす事態となっている。つまり責任の所在が不明瞭化したり、敵味方の識別が困難になっている。
 
 このようにグローバリゼーションの結果、従来のセオリーで自国の利益を確保するには世界中に戦力を展開可能な海軍力が必要となっている。これが実質上不可能な以上、各国は警察/軍事面で互いに連携する方向を模索する以外に選択肢を持たない。各国政府および海軍首脳部は従来の方法からドラスティックな発想の転換を迫られている。
 








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