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1.6 底層水の溶存酸素濃度(項目番号:生態−6)
1.6.1 調査趣旨
 貧酸素、無酸素状態は生態系を構成する全ての生物に深刻なダメージを与える。特に海湾において底層ほど溶存酸素濃度は低く、底層の溶存酸素濃度は底生系生物の生息環境の状態を示す指標として評価可能である。ここでは、生物の生息環境の観点から生息に決定的なダメージを与えると考えられる値として、貧酸素水塊の定義は3ml/L(=4.2mg/L)以下とする。
 
1.6.2 使用データ
 公共用水域水質測定結果および各自治体が実施している浅海定線調査を使用する。
 公共用水域水質測定結果とは、水質汚濁防止法により義務付けられた自治体の公共用水域の水質調査であり、その公表も義務付けられているものである。調査対象の水質項目は多岐にわたり非常に多いが、同じ観測点では鉛直方向の観測層数が少ない。原則として月に1回程度実施されている。
 浅海定線調査は、各自治体の水産部局において実施されている漁況海況予報事業の一部であり、沿岸域の定点観測を実施しているものである。調査項目は水温・塩分等であるが、一部DO等の実施も行われている。鉛直方向の観測層数が多いことが特徴であり、各自治体により実施頻度は異なるが、概ね月に1〜2回実施されている。
 
1.6.3 調査手法
 これらのデータはおよそ1ヶ月程度の間隔で定点調査を実施しており。調査定点が対象とする海湾に存在していれば、経年的に溶存酸素の推移をも把握できる。また、対象とする深度は海底直上のデータが望ましい。
 公共用水域水質測定結果では上層・中層・下層という分類の仕方で調査を実施しているが、調査点の水深条件などにより全ての調査地点で全ての層の観測結果があるわけではない。ここでは、下層のデータのみを対象としてデータの整理を行う。一方、浅海定線データは水温・塩分については5〜6層程度の観測が行われているが、その他の項目については、実施主体によって大きく異なる。浅海定線データを用いる場合は最下層のデータを対象として整理を行う。
 調査手法としては、溶存酸素濃度の全湾平均値を算定しその経年変化を把握するとともに、貧酸素水塊がどの程度の広がりをもって存在しているかを評価することが必要であり、貧酸素水塊が海湾の面積に占める割合を算定する。ただし、ここでは次式に示す手法で簡易的に貧酸素水塊が占める割合を算定するものとする。
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1.6.4 調査結果の評価手法
 東京湾や大阪湾など、調査や知見が蓄積されている海湾のデータをもとに、「海の健康度」の評価基準は以下のよう設定する。
 
貧酸素比率が最大で50%を超えないこと。
 
1.6.5 調査結果の事例
(1) DOの経年変化
 各海湾におけるDOの平均値、最大値、最小値の経年変化を図III-9に示す。データは公共用水域水質測定結果を用い、1ヶ月ごとの下層のデータのみを対象に全サンプルを単純平均することにより算定した。
 DOの経年変化からは全ての海湾で、夏季に低く冬季に高い明瞭な季節変化がみられる。海湾ごとに比較すると、周防灘、有明海は夏季の最低DOをみても3ml/Lを下回るような貧酸素水塊はあまりみられないが、東京湾、伊勢湾および三河湾は夏季には貧酸素、無酸素水塊の出現がみられる。また、これらの季節的な特徴は経年的にほとんど変化なく、1970年代から貧酸素水塊の挙動はあまり改善されていないことが推定される。
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図III-9 DOの経年変化(下層のサンプルの単純平均)(公共用水域水質測定結果より)
(2) 貧酸素水塊が海湾面積に占める割合
 DO濃度の経年変化をみることによりある程度海湾の貧酸素の状態を把握することができるものの、貧酸素水塊の広がり方などの空間的な規模等を把握することはできない。
 そこで、簡単に貧酸素水塊の空間的な広がりを評価する手法として、貧酸素になっているサンプルが全サンプルに対して幾つあるかを計数した。
 また、ここでは貧酸素水塊の定義として生物の生息が危ぶまれる3ml/L(=4.2mg/L)として算定を行った。図III-10には底層における貧酸素比率の経年変化を示す。
 底層における貧酸素比率ではデータ不足が否めない。しかしながら、東京湾では夏季には50〜60%の面積が貧酸素水塊に覆われる結果となり、既往の知見と矛盾しない。さらに、伊勢・三河湾はデータが少ないのでデータの信頼性には乏しいものの、夏季には100%近い面積で貧酸素が生じている結果となった。それに対して周防灘・有明海はほとんど貧酸素水塊があらわれない特徴がみてとれる。
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図III-10 底層における貧酸素比率(3ml/L以下のサンプルの割合%)
 
1.6.6 注意点
 ここでは公共用水域水質測定結果のデータを用いて整理したが、底層におけるデータの不足が否めない。また、同データは水質汚濁の監視を目的に調査を実施されており、水質汚濁が懸念される沿岸部に調査点が偏って配置されている。そのため湾中央部のデータも不足している。これらの理由から底層の貧酸素比率といっても全湾の平均的な値に比べてある程度の誤差が含まれている可能性がある。
 今回は使用していないが、浅海定線データでは、上記の問題が一部解消されている。浅海定線データは湾中央部の調査点が多く含まれており、公共用水域の測点配置と比べると、均一に配置されていると言える。しかしながら、浅海定線は公共用水域水質測定結果に比べて、データの公共性が低いため、データ収集が困難であり利用しづらい現状がある。








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