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マスタープラン
 
「海の健康診断」とは
 「海の健康診断」とは、海洋の様々な営みを簡便な手法で継続的に監視することが可能なモニタリング手法のことである。
 
海洋の様々な営みとは
 海は様々な生物を産み育てる大きなゆりかごの役割を果たしている。これらの生物と生物の棲む海域環境とによって生態系は形成されている。一方、陸から流入した栄養分は、流れ等によって運ばれる。流れ等によって運ばれた栄養分は生物に行き渡り、生産や浄化が起こる。このように物質の循環は物理的な作用の他に生物によるところも大きい。海の健康診断は、海の様々な営みを海の健康状態と捉え、生態系と物質循環に着目し、海の健康状態を理解しようとするものである。
 
生態系とは
 海に棲む様々な生物とそれらをとりまく海の環境とによって形成されるまとまりが生態系である。生態系の範囲は様々に捉えることができるが、本マスタープランでは、海湾全体を一つの生態系としてとらえている。
 本来、生態系を構成する生物の種構成及び生物量は、季節の変化や、大雨等による突発的な気象条件等、自然条件下での生息環境の変動に左右され、ある一定の幅で変動するものである。一定の幅で変動している状態が生態系が安定している状態である。人の活動等によって海域環境が悪化してくると、この変動幅は崩れてくる。この状態が不安定な状態である。生態系が安定していることが海洋の営みにとって重要なことである。
 
物質循環とは
 陸域から流入する栄養塩を藻場や干潟に代表される浅海域で受け止め、生物による浄化−生産が起こり、海水中では、光合成による基礎生産に始まる、食う、食われるの食物連鎖によって生物資源が生産され、鳥や漁業によって形外への除去が行われている。底層に入った栄養物質は、固着性の強い底生魚介類の餌となるとともにバクテリアなどの微生物によって分解され、底泥からの溶出により再び海水中に循環している。この時、酸素が消費される。このような内部循環の一方で、潮汐などの物理的な作用で外海へ移流・拡散している。
 この構造の中で、負荷、生産、沈降、分解、拡散等の物質の動きが「物質循環」である。物質循環が滞ることなく円滑であることが海の営みにとって重要なことである。
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沿岸域の基本構造
 
健康診断の手法とは
 「海の健康診断」は、比較的簡便な一次検査、専門知識と技術を必要とする二次検査で構成し、検査結果と海湾の基本情報とから対象海湾の健康状態を総合評価するものである。
 簡便な手法とは一次検査のことである。「海の健康診断」の具体的な内容はガイドラインを参照のこと。
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「海の健康診断」の構成
 
海湾の基本情報とは
 基本情報とは、海湾の概要を把握する為に必要な情報のことであり、「海の健康診断」を行うに当たっては、まず、海湾の概要を把握することが重要である。また、基本情報は、一次検査及び二次検査の調査計画の立案、総合評価を行う際の判断材料としても活用する。
 収集する情報は、地理的条件、気象的条件、社会的条件、歴史的条件及び管理的条件である。
・地理的条件:海湾の位置、形状、水深、面積、容積
・気象的条件:気温、降水量、風、日射量
・社会的条件:流入負荷に係る情報
・歴史的条件:陸域・海域の利用の変遷、有害物質等による汚染履歴
・管理的条件:海湾に隣接する自治体
 
一次検査とは
 一次検査は簡便な方法により海湾が健康か不健康かを評価する検査である。誰にでも簡単に入手できるデータを使って簡単にできる検査となっている。
 検査手法は、入手した資料を使って経年変化を整理したり、現場に出て生物の観察や底質の採取を行うものである。
 検査結果は評価基準に照らし合わせて、調査主体が、健康状態を評価し、不健康であると評価された項目については二次検査で詳細な検討を行うこととなる。
 
二次検査とは
 二次検査は、再検査と精密検査で構成する。再検査とは、一次検査で“不健康”と評価された項目について、詳細な調査を行い、“健康”か“不健康”かの評価を再度行う検査である。精密検査とは、再検査で“不健康”と評価された場合、その原因究明を目的とした検査である。いずれの検査も詳細に行う検査であり、二次検査は専門的な知識と技術を必要とする検査となっている。
 検査は既存資料及び現場調査から、海湾の詳細な情報を入手することが主体となる。
 二次検査の診断は、ガイドラインに沿って調査主体が行うこととなる。
 
総合評価とは
 総合評価は、二次検査の精密検査まで行われた後に、基本情報を踏まえて、海湾の健康状態を最終的に評価するものである。
 一次検査で不健康と診断され二次検査の精密検査まで行った場合でも、基本情報を考慮することにより健康と評価される可能性もある。
 総合評価は、非常に高度な判断を必要とすることから、学識者等で構成された検討委員会等によって評価を行うことが望ましい。
 海湾の健康状態を把握した後は、健康の維持・管理、不安定要素の排除・改善、環境改善及び環境修復といった方策を検討する必要がある。しかし、「海の健康診断」は、対象海湾の健康状態を評価することを目的としており、いわゆる治療方法まで示すものではない。
 
継続的に行うには
 「海の健康診断」は、人と同様に、定期的に継続的して行うことが大切である。この考え方に基づき、二次検査以外の基本情報の収集及び一次検査は簡便な手法で構成している。しかし、基本情報には土地や海域利用の変遷、汚水処理場の整備状況及び人口分布等、一次検査には、公共用水域の調査結果及び過去数十年分の統計資料等の様々な既存資料の収集及び整理が必要である。また、対象とする海湾によっては複数の自治体の協力が必要となる場合もある。
 したがって、「海の健康診断」は自治体を中心とした体制を組んで行い、健康状態の評価は専門的な知識を有する学識者に依頼することが望ましい。検査結果は、すべて公開することを原則とし、誰もが海の健康状態が見られる体制を整備する必要がある。また、検査で取得した情報は消失しないようデータべース等により管理する体制を整備する必要がある。








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