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1.6 地中海大学マルセイユ海洋学センター(d'Endoume Marseille)
 「CENTRE D'OCEANOLOGIE DE MARSEILLE」は、CNRSに所属し、1889年に設置された歴史のある海洋学センターで、CNRSの研究者や教育研究者ら100人余りが在籍している。調査研究は、1)海洋の生産性、2)バクテリアの役割、3)微粒物質の生物学的輸送、4)沿岸の食物網、5)生態系と多様性、6)生物の生息環境の6つに分かれている。今回の訪問では、センター長のLAUBIER博士と生物部門の責任者である GRENZ博士に面談、話を何う機会を得た。
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写真1-6 左;海洋学センター本館(創設時とほとんど変わらない)、
右;本館屋上で(中央がLAUBIER所長、左がGRENZ博士)
 
 モニタリング調査に関しては、ニース大学と同様にPosidoniaの観察ネットワークに参加し、分布図作成を行っている。また、マルセイユの下水処理場から排出されるスラッジを使って藻礁を作成し、藻場造成を試みている。マルセイユの下水処理場前面海域での観測では、汚濁海域の変化を追跡している。藻礁はこの海域の西側に設置されている。潮間帯についても生物生息密度を調査し、分布に関する情報を蓄積している。
 
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図1-8 マルセイユ廃棄物処分場前面海域の環境の変遷(1966年から続けられている)
 
 海域ではマルセイユ前面の海域で、1994年から35点の横断鉛直観測を行っており、観測項目は、水温、塩分、pH、DO、クロロフィル、窒素、リンで、我が国の調査内容と大きく違わない。
 また、気象変動により、風による混合が小さくなり水温が上昇したため、岩礁部の珊瑚や海綿が死滅した。これを受けて、マルセイユ沖に鉛直断面を設定して水温の常時監視を継続しているとのことである。
 
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写真1-7 水温上昇に伴う海綿の死滅例
 
 海洋環境の健康については、流域の状態、生物量、生息密度、多様性が重要で、生物の活力を酵素の分泌などで調べるのも一つの方法ではないかとのことであった。また、生物相については全体を見るだけではなく特定の種(指標種)の追跡も有効であるとのことであった。
 
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図1-9 下層水温の変化(1998年と1999年の対比;1999年の水温上昇で海綿の死滅が生じた)
 
 
1.7 まとめ
 南フランスにおいては、大学の研究機関や民間コンサル、さらにはIFREMERが、モニタリング情報の共有化、連携をはかり、比較的簡単な方法で生物種に着目した調査を継続的に実施している。また、モニタリングの目的が、外来種の移入(在来種の保護)や生物種の鉛直的な分布確認など焦点を絞ったものが多く、簡潔で、継続可能な方法が採用されている。
 潮間帯の主要な生物を観察によって網羅したモニタリングや外来種の移入状況を他の研究機関と連携してマッピングする調査など、息の長い地道な調査には頭が下がる。
 峻険な岬の突端まで地下道を貫通し、下水処理場が整備されている。建設に伴う環境影響についてはヒヤリングできなかったが、大胆な手法での環境整備には目を見張るものがある。処理排水のモニタリングは、底質や底生生物に着目した内容で、年間1回の調査ではあるが処理場が完成した以降の環境改善効果を端的に示していた。
 我が国における閉鎖性海湾の環境モニタリングとして取り入れるべき内容としては、在来生物の継続的な観察、潮間帯などの身近な生物の観察によるマッピング、海洋構造 (水温分布など)に着目した鉛直断面の連続観測、官民の協力による観測体制とネットワークの構築などで、その特徴は下記のとおりである。
 
1.7.1 外来の侵入生物の分布拡大に関するモニタリング (主にニース大学)
・潜水観察による外来種の分布確認
・啓蒙活動による在来種の保護
・マルセイユ海洋学センターなどとの連携による広域分布の把握
・着生、拡大過程のモデリング
 
1.7.2 潮間帯生物に着目した長期継続的なモニタリング (ニース大学)
・年1回の潜水観察及び踏査による潮間帯生物の分布確認
・比較検討による環境変化の把握
・生物同定情報のホームページ公開
 
1.7.3 鉛直断面の推続観測 (マルセイユ海洋学センター、パリ第VI大学)
・気候−海洋(水温)−生態系 (海綿)の変化を見るための水温観測 (マルセイユ海洋学センター)
・プランクトン、アペンディキュラリアの光学的鉛直観測と海洋構造(水温、塩分等)の同時観測(パリ第VI大学)
 
1.7.4 官民の協力、ネットワークの構築
・高度下水処理排水の影響モニタリング(コンサル−大学−IFREMER)
・底質や底生生物の継続的モニタリング
・外来生物種の分布拡大などの共有
 
1.7.5 その他;スラッジを利用した藻礁設置による藻場造成(マルセイユ海洋学センター)
・廃棄物処分場前面海域の長期的環境変化モニタリング
・藻礁設定による環境修復








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