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調査研究の概要
1. 調査研究の目的
 本調査研究は、海洋沿岸域の最重要エリアの一つである閉鎖性海湾を対象に、海洋環境を構成する各要素を総合的、系統的、継続的に把握する分野横断的なモニタリングのマスタープランの作成、具体的な閉鎖性海湾についてマスタープランを適用するためのノウハウをまとめたガイドラインの作成を通じて、モニタリング計画を効果的に実施するための体制やモニタリング情報の統合管理・相互利用のための方策等の研究を行う。また、国内の閉鎖性海湾を選定し、マスタープラン及びガイドラインをもとにケーススタディを行い、同プランの効果的な実施へ向けた方策、情報の統合管理・相互利用について検討し、海洋環境等の機能向上及び保全に寄与することを目的とした。
 
2. 調査研究の構成
 我が国沿岸域の海洋環境モニタリングのあり方を検討するに当たり、海洋環境の汚染源監視の従来型考えから、海洋環境汚染を未然に察知する、予防的な本来のモニタリングの姿を提言するため、「海洋環境はどうあるべきか」、その為に「海洋環境モニタリングはどう位置づけられるのか」という基本理念を固めるところから始め、その基本理念に基づくモニタリング計画、モニタリング体制を提言することを目標とした。具体的な提言に当たっては、代表海湾における環境の現状やモニタリング調査の実状を把握し、課題や問題点を抽出し、解決方策を検討することで実践的なモニタリング計画として「海の健康診断」をまとめ、マスタープラン、ガイドラインを作成した。
 調査研究の全体構成及び手順を図2-1のフローに示す。
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図2-1 調査研究フロー
 
 
3. 調査方針
 海洋における調査・研究は、航海の場として航路の安全性を確保することや生物資源の効率的な確保を目的とすることから始まり、人為的な負荷が加わるに至り、恩恵を享受するだけでなく、これらの恩恵を継続するための調査・研究へと変遷してきた。現在でも地球表面の7割を占める海洋は、水圧や光の制約もあり未解明な部分が多く、「海を知る」ための研究が多く続けられている。
 一方、人為的な負荷を直接的に受ける沿岸や近海では、様々な負荷によってもたらされる海洋汚染やそれに伴う漁獲資源の変動(減少)が問題であり、我が国でも公害問題が表面化してきた1970年代以降、環境庁(現環境省)を中心とした海洋環境モニタリングが実施されてきた。これらの調査・研究の海洋空間でのスケールと技術レベルの関係を模式的に示したものが図3-1であり、現状においても空間スケールが大きくなるほど研究的な色合いが強くなる。
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図3-1 海洋環境モニタリングの空間的・技術的イメージ
 様々な要因で複雑に変化する海の状態を知るためには、ある程度確立された技術で継続的に観測する必要がある。特に、刻々と変化する環境を連続情報(積算情報)として捉えるためには生物情報が有効であると考える。
 このような観点から、海洋環境モニタリングの実状をみると、我が国における沿岸域、閉鎖性海湾の海洋環境モニタリングは、主に陸域から負荷される栄養塩物質や有害物質(重金属など)の海域での分布を把握し、生活排水や工業廃水による流入負荷の対策に寄与してきた。その後も、新たな化学物質が調査の対象となり、近年では外因性内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)やダイオキシン類もその対象となっている。
 しかし、調査の対象はほとんどが水質や底質の項目であり、クロロフィルや植物プランクトンが一部で観測されている他は、有害物質の生物体内蓄積を対象としており、生物量や生物相を継続的にモニタリングした例は見あたらない。
 一方で、漁業資源に対しては、漁海況観測が古くから行われてきたが、餌料の分布の基礎となる水温、塩分や対象資源生物の状態把握が主で、生物群集を俯瞰する調査とはなっていなかった。
 また、沿岸域における様々な開発行為では、閣議決定による環境影響評価手続きによって環境現況調査、影響監視調査(環境モニタリング)が行われ、生物量や生物相についても多くの情報を得ているが、これらは事業海域周辺に視点を据え、ある一定の期間だけの調査に限定されているため空間規模や継続性に乏しい。
 本調査研究が目指すモニタリング調査は、“人間にとって身近で人間の活動に対して感度が高い閉鎖性海湾に焦点を当て、確立された技術を用いて継続的に必要な情報を取得する調査”とし、取得した情報を効率的に活用できる管理体制を含めたモニタリングのあり方を検討した。検討に当たっては、アジェンダ21行動計画第17章及び国連海洋法条約の趣旨を十分に踏まえた。
 
4. 調査研究の実施内容
4.1 閉鎖性海湾における環境モニタリングの明確化
 
4.1.1  海湾のあるべき姿の検討
 海湾の営みや仕組みを整理し、「海のあるべき姿」と「海の健康な状態」を定義した。「海の健康な状態」の定義に当たっては、国際海洋法条約、アジェンダ21行動計画第17章の趣旨を踏まえ、学識経験者等の既往文献、講演内容、海外事例を収集整理して検討した。
 
4.1.2 海の健康を診断するモニタリングの検討
 海の健康状態を診断するための着眼点とそれに沿った項目(評価項目)を検討した。さらに、海の健康状態を診断する評価項目が実際の海湾のどのような事象、海象で判断できるかを整理し、海の環境モニタリングのあり方をとりまとめた。
4.2 閉鎖性海湾における環境モニタリングの現状把握
 
4.2.1 海湾における環境モニタリング調査の実態把握
 国内外の海湾における環境モニタリング事例及び海湾の環境情報を収集整理した。
 国内の海湾については、主要海湾である東京湾、伊勢湾、瀬戸内海、有明海を調査対象とした。
 諸外国の海湾については、既往文献、学術レポートの収集によって、我が国における海湾の環境モニタリングに参考となる事例を抽出した。また、具体事例として必要な調査体制、情報管理などのあり方については、現地調査によって事例を収集し、とりまとめた。
 
4.2.2 海湾環境の現状把握
 海湾の環境の現状、特性(体質)を把握するために代表海湾を選定し、海湾の健康状態を診断するための評価項目に沿って、収集資料に基づいて代表海湾を整理した。
 
4.2.3 現行の環境モニタリングの問題抽出
 代表海湾で行われている環境モニタリング調査について、海の健康状態を測定する評価項目が調査されているのかどうかを検討した。さらに、その結果得られた現行モニタリングの問題点を抽出した。
 
4.3 閉鎖性海湾環境モニタリングマスタープランおよびガイドラインの作成
 
4.3.1 マスタープランの作成
 「海の健康な状態」の定義、海の健康状態を知るための海洋環境モニタリングのあり方を踏まえ、さらに、現状の環境モニタリング調査及び海湾環境の現状から抽出された課題、問題点に留意して、閉鎖性海湾における環境モニタリング「海の健康診断」のコンセプト、仕組み、検査の内容についてマスタープランを作成した。
 
4.3.2 ガイドラインの作成
 「海の健康診断」の具体的手法として、一次検査と二次検査の内容を中心に、ガイドラインを作成した。一次検査については、手法、評価基準、事例、注意点を、二次検査については、専門的調査の構成を記載した。
 
4.3.3 ケーススタディ
(1) 環境モニタリング計画の策定
 有明海を対象に、海洋汚染の可能性を指摘し、その原因を究明するための二次検査の方法を提案した。
(2) 代表海湾の「健康診断」
 有明海を対象に、生態系の安定性と物質循環の円滑さに係る一次検査を実施し、有明海の健康状態を診断した。
(3) 閉鎖性海湾環境モニタリング体制
 「海の健康診断」が、継続的に実施され、環境情報が蓄積され有効に利用される体制について検討した。
 
5. 調査研究のスケジュール
5.1 第1回委員会
開催日; 平成12年11月1日
議題; ・全体事業計画及び実施計画について
 
5.2 第2回委員会
開催日; 平成12年12月22日
議題; ・閉鎖性海湾における環境モニタリングの明確化について
  ・閉鎖性海湾における環境モニタリングの現状について
  ・環境モニタリングに関する海外研究事例について
 
5.3 第3回委員会
開催日; 平成13年3月6日
議題; ・海の健康度について
  ・海の健康度を診断するモニタリングの検討について
  ・海湾環境の現状把握について
  ・海湾における環境モニタリング調査の実態について
  ・マスタープランについて
 
5.4 第4回委員会
開催日; 平成13年4月27日
議題; ・平成12年度調査研究報告書について
  ・平成13年度事業計画について
  ・平成13年度実施計画について
  ・海外事例調査について
 
5.5 第5回委員会
開催日; 平成13年7月13日
議題; ・第5回世界閉鎖性海域環境保全会議への発表要旨の応募について
  ・「海の健康度」の評価項目について
  ・ケーススタディ海湾の選定について
  ・海外事例調査について
 
5.6 第6回委員会
開催日; 平成13年12月27日
議題; ・第5回世界閉鎖性海域環境保全会議発表報告
  ・「海の健康診断」マスタープランについて
  ・「海の健康診断」一次診断項目および診断方法等について
  ・海外事例調査について
 
5.7 第7回委員会
開催日; 平成14年3月1日
議題; ・平成13年度調査研究報告について








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