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はじめに
 本報告書は、競艇公益資金による日本財団の平成12、13年度助成事業として実施した「閉鎖性海湾の環境モニタリングに関する調査研究」の成果を取りまとめたものです。
 海洋、とりわけ我が国の沿岸域は水産資源の宝庫であり、自国内において動物性タンパク質を確保できる数少ないエリアです。21世紀初頭には、アジア・アフリカ地域を中心に世界的な人口爆発も予想されている現在、他国からの輸入に依存することなく動物性タンパク源を安定的に確保することは、食糧安全保障の観点からも大変重要なことですが、安定的な確保は、同海域の環境が健全であればこそ持たらされるものであり、そのための最も基礎となるモニタリングは、国家戦略から言っても大変重要な行為だと言えます。
 このような中にあって、我が国では運輸、通産、環境、農林水産の各行政の観点から様々なモニタリングが行われていますが、これらモニタリングはそれぞれの実施体で個別に行われているため、そこで得られたデータは必ずしも包括的に分析されず、また、火山噴火や地震といった国民の財産に直接損害を与える現象のモニタリングに比べてその重要性が認識されてこなかったように思えます。
 海は、人体が行う食物の摂取から排出に至る一連の営みにも似て、河川等から流入する栄養塩を流れによって各部へ輸送し、食物網を通じて分解・生産・浄化を行っているほか、一部を漁獲により系外へ排出することによって、全体として環境のバランスを保ち、我々に様々な恩恵を与えています。
 しかし近年、沿岸域では生物の生息にとって重要な干潟や藻場を含む浅海域が消失し、生物による浄化や物質循環の働きが阻害されてきているなど、環境のバランスが崩れてきたところが多くなっています。特に閉鎖性の海湾においては、湾外との海水交換が小さいことなどから、この食物網による物質循環機能の低下は深刻な問題です。海洋環境は一旦破壊されるとその回復には多大な費用と歳月を要します。危険をできる限り早期に察知し、環境の維持・改善のため素早い対応をする予防的なセンスは、国家としての危機管理にもつながっていきます。
 本事業では、このような観点から、沿岸域の中でも物理的な形状や背後圏に経済活動地帯を抱えるが故に最も環境が破壊されやすい閉鎖性海湾を対象に、これまで個々に分析されてきたモニタリングのデータを相互に関連づけ、環境を包括的に評価する仕組みとそのために必要なモニタリングを「海の健康診断」として取りまとめました。
 本事業の実施にあたりましては、長崎大学中田英昭教授を委員長とする「閉鎖性海湾の環境モニタリング検討委員会」の皆様の熱心なご議論・ご指導を賜り、これらの方々に対しまして厚く御礼申し上げます。
 本報告書が閉鎖性海湾の健康状態を評価する際にお役に立てば幸いです。
 
平成14年3月
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団
  会長   秋山 昌廣








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