4)F1ドライバー保護システム 「HANS」(ヘッド&ネック・サポート・システム)
シート固定のヘルメットを含めたドライバーサポートシステムで、首部の安全を重視するものであり、競技会としての防護の参考になる。
[1]使用目的
この装置は、FIAの安全委員会で、これまで実験を重ねてきた新安全システムで、有効な結果が得られたことから、今後全車への搭載を義務づける方針を検討中である。
これは「HANS」(ヘッド&ネック・サポート・システム)と呼ばれ・ドライバーの上身及びヘルメット部に装着することにより、弱かったとされる頚椎部分を保護しようとするものである。
この新しいドライバープロテクション・システムは、「HANS」(ヘッド・アンド・ネック・サポート)と呼ばれるもので、高い減速Gが発生する事故が起きた場合でも、ドライバーとマシンをHANSが繋ぎ止めるため、頭部、頚部への重大なダメージを回避することができるというもの。
同ジョイントベンチャー・グループは、これまでF1用エアバッグシステムも並行して研究開発してきたが、HANSはすべての面で高い効果を挙げたため、エアバッグを導入するプロジェクトは放棄された。なおFIA安全委員会らは、近い将来のF1へのシステム導入に向けて提言を行っていくという。
[2]仕様・効果
「HANS」というドライバーの安全を助けるための装置はドライバーの安全を最大限確保するために開発が進んでいるもので、Mercedesが中心となって開発しているようである。各種雑誌などに頻繁に取り上げられるようになったので、いよいよ実用化されるようである。このHANS(ヘッド・アンド・ネック・サポート)システムが正式に発表されたのは、サンマリノGP。FIAとMercedes・Benz、マクラーレンは、F1に適したエアバッグシステムの開発ならびにテストの結果、HANS開発結果を発表した。そもそも、F1でのエアバッグ研究は1996年から進んでおり、GTカーではすでにBenzが実際に使用している。
これら安全装置の開発の目的は、正面と、現実に起こりうる衝突角度として最大30度までの斜め前方からの衝撃に備えたドライバー拘束システムの開発であった。
F1でクラッシュする場面は、タイヤバイリアなどの衝撃吸収装置に激突する場合と、F1の車同士が激突する場合である。一般の自動車でも同様であるが、クラッシュ(事故)からドライバーを守るには、シャシー構造を強化させればよいわけであるが、加えて重要な要素として、クラッシュの際に加わる大きなG(加速度)の問題がある。強固なモノコックがドライバーの外傷を防いだとしても、強い減速Gによって体内の器官が損傷する可能性がある。人間の場合特に頭部とクビのダメージは致命的なものになる。普通車の場合は、頭部のダメージの軽減にエアバッグ、首へのダメージの軽減にヘッドレストが用いられている。(F1ではヘッドレストはすでに使用されている)ならば、F1でもエアバッグを装着すればいいじゃないかと言うと、実はこれが非常に難しい。一般車で使用されているエアバッグは、車体が何かに衝突してセンサーが「一定の値」を超える減速Gを検出した場合に作動する。ところがF1の場合、この「一定の値」をどの程度にするかが非常に難しい。走行中の加速Gや横Gは普通車とは比べ物にならないぐらい大きく、サスペンションのストロークも極端に短いために、垂直方向の衝撃も強い。だから、縁石に乗り上げた場合などにエアバッグが作動してしまう場合もある。これはかえってドライバーを危険な状況にすることになってしまう。逆にセンサーの感度を低くすると、今度はクラッシュしたときに、エアバッグが作動しなくなってしまう。
また、エアバッグは1回反応してしまうと、それ以後は一切ドライバーを保護する能力を果たさない事も問題。一般車であればそれでも十分ドライバーを保護するかもしれないが、F1の場合はハイスピードクラッシュであるので、最初にバリアに衝突したあと、さらにスピンして他車にぶつかり、そしてまた周囲の物に衝突するという、2次、3次の衝突がある。この2次、3次の衝突に対応できないと、結果的にドライバーを保護できず、ドライバーの頭部はコックピット内部の至る所に激しく叩きつけられることになる。
これらの問題を見事にクリアしたのがHANSというわけである。構造や使い方は「カーボンファイバー製で、ドライバーはシートに着座してこのプロテクターを上半身に装着する。そしてその上からシートベルトを締める。プロテクターにはドライバーの頭部を囲むような半円筒部分があり、この半円筒部分がヘルメットを支え、この円筒部部の後方から伸びるストラップでヘルメットをつなぎ、クラッシュした場合に、前後左右の頭部の動きを規制する」という仕組み。言葉で説明してもイメージがつかめないと思うので写真を載せておいた。HANSの重量は今のところ700gと比較的軽量であるが、F1の世界ではまだまだ軽量化する余地があるといえる。