日本財団 図書館


◎近代都市空間での人々の営み◎
 一九三〇年前後の都市改造は、それまでにないスケールの大きな空間を登場させた。自動車の通行可能な幅の広い通り。トラスで大屋根を架けた大空間が登場した市場。大きな客船を横付けできる埠頭。しかし、人々の生活空間のスケールが変わったわけではない。
 都市改造によって開発された街路に沿って、三〜四階建ての騎楼が並んだ。歩行者のための空間である柱廊は幅が三メートル弱であり、高さは四メートル前後である。歩いていても、圧迫感を感じさせない。都市改造以前の街路とは形態が全く異なるが、人が中心という意味では同じである。柱廊は、都市改造以前の街路を常設の屋根で覆った半戸外の街路と見ることができないだろうか。
 歩行者にとって雨露、日差しを凌いでくれる空間である柱廊。騎楼に住む人も利用しないはずがない。また、振り売りなどの露天商も吸収する空間なのだ。いわば路地空間である。さらに、個人経営の店舗が多く集まる騎楼では路地に見られたような光景が見られるのである。ここでも、お茶セットは至る所に見られる。そして、利用する人によって使い方は実に多様だ。販売の空間であったり、厨房と化したり、休憩の場であったり、洗濯物干し場であったり。また、上層階に住む人たちの憩いの場でもある。都市居住の受け皿にもなっているのだ。柱廊の空間は、誰にでも開放された空間である。(図[12]写[12])
図[12]歩廊にあふれだす生活…
z0072_06.jpg
騎楼に設けられた歩廊も、生活の空間として利用される。時間帯によって、異なるから面白い。日中の主役は、一階部分に入っている店舗の人たちだ。日が落ちると、二階以上に住む住民にも利用される。自ら小さな椅子を持ち寄り、くつろぐ。街灯を頼りに読書に耽る。近所のおばちゃんが集まり井戸端会議に花を咲かせる。
写真[12]歩廊でお茶を愉しむ…
z0073_01.jpg
半戸外の歩廊は店員たちの休息の場でもある。
 現在のこうした背景には、一九五○年代の土地改革により住居が分割され、一人毎の居住面積は少なくなったことも影響しているだろう。しかし、こうした空間を生活空間の延長として使う習慣が厦門人のライフスタイルとして脈々と受け継がれていると見ることができるのではないだろうか。
 次に、都市改造で開発された街路の車道に目を移してみよう。都市改造によって幅の広い近代的な通りが網の目のように登場したわけだが、現在すべてが自動車の通れる通りになっているわけではない。一方通行や進入禁止に規制している通りも多い。そこでは、人を中心とした様々な利用が見られるのである。なかでも、仮設店舗が立つのはその代表である。幅の広い通りに仮設店舗が並ぶことによって、ヒューマンスケールの都市空間をつくりだしているのである。時間で規制され夜市を形成している場所もあり、夕涼みにきた人たちが集まり、にぎわいをみせている。(写[13])
写真[13]仮設店舗の立つ街路…
z0073_02.jpg
この街路には夜市が立ち、衣料の店舗が多く集まる。夕暮れ時になると、仮設店舗をつくりそれぞれの商品を思い思いに並べる。仕事帰りの人や夕涼みにでてきた人でごった返す。
 また、都市の隙間ともいうべき場所も活用される。都市改造で計画が中途で頓挫している場所は、街路の四辻を丸く隅切りされ従来の街路に接続している。幅の広い近代の通りと幅の狭い近代以前の街路とのギャップで、ある種広場のような空間を形づくっている。ここでは、露天で靴や鞄を直す露天商などが見られたり、テーブルを並べ食堂の客席になっていたりするのである。(写[14])
写真[14]街路で商いをする露天商…
z0073_03.jpg
ここでは、革製品の修理をする露天商が、工具を広げ営業している。同業者が集まり、競合してしまいそうだが、どの露天商も盛況である。
 このようにあらゆる空間を巧みに使うことによって、豊かな都市空間を生み出しているといえる。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION