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2 三つの提案
 今回の調査研究にもとづいて、島原市の文化・文化財を活かしたまちづくりに関して三つの提案をしたい。これらについて以下で説明する。
提案1 島原市で登録文化財100件に
 ここでは「文化財を活用するまちづくり」の基礎となる提案として「登録文化財100件に」をまずあげる。それに先だって文化財、登録文化財制度について少々考えてみたい。
 「文化財」と聞いたとき、みなさんは何をおもいうかべるだろうか。文化財の保存と活用に従事しているわたくしが、しばしば耳にするのは、文化財に指定されたならば自由に何もできなくなる、クギ一本打てなくなる、といった規制に対する不信感である。重要文化財に指定されたならば、文化財保護法にもとづいて規制がかかることは事実である。また、文化財というと「博物館入り」をおもいうかべる人もいる。その中身は古臭さく、今では不必要なものといった意味合いが含まれている。
 このように一般に文化財はあまりいい意味に取られていなかった。しかし、世の中は今大きく変わっている。大量生産大量消費の時代は過ぎた。そんなことをしていては人も動物も植物も住み生き続けられる地球でなくなってしまう。文化遺産はわれわれが生きてきた証である。文化遺産は祖先からの預かり物である。これを子供たちに橋渡しするのが、今に生きるわれわれに与えられた役割である。
 もとに戻って重要文化財指定についてみると、建造物の重要文化財指定は、明治30年(1897)以来105年かけて3700棟ほどにすぎない。年平均35棟ほどの指定である。一都道府県あたり年1棟にも満たない0.75棟である。重要文化財指定がいかに厳選しており、稀なことかがわかるだろう。この点の反省があって、平成8年(1996)に、文化財保護法が改正され指定文化財制度に加えて建造物の登録文化財制度ができた。
 登録文化財制度と指定文化財制度のもっとも大きな違いは、指定文化財、つまり重要文化財・国宝の指定は国がする行為であるのに対して、登録文化財は所有者の意思で登録できる点である。指定文化財の指定は厳密な価値評価にもとづいておこなわれる。これに対して登録文化財への登録要件は、建造後50年を経ていること、所有者が保存の意思があることである。この二つの要件がそろえば、あとは簡単な調査と事務手続きをすればよい。建造後50年を経た建造物は文化財としての価値をもっていると考えられているのである。
 次に、指定と登録との保存上での違いは規制と助成のあり方にある。簡単にいえば、登録文化財に規制はなく、助成もほとんどない。登録物件を取り壊す場合もその届出をすればよい。ただ、わたくしは「登録になってすぐに取り壊すようなことだけはやってほしくない」と、所有者にいうことにしている。規制がない登録文化財に対して、指定文化財にはそれなりの規制と助成がある。
 登録文化財制度は日本ではまだ新しい制度であり、現在では建造物関係だけに適用されている。この制度は今や普及の階段を登りつつある。制度が発足してから6年を経た現在で3000件が登録されている。年500件のスピードである。この数字もイギリスやドイツ、アメリカなどと較べれば、非常に小さな数である。
 島原市に建造後50年を経ている建築物、工作物、土木構造物などは数多くある。このうち民家や武士住宅に限定しても100件以上は優にあるだろう。少なくとも100件を登録文化財として登録したい。なぜ100件であるか。この理由は単純である。いま全国で100件の登録文化財を有している市町村がなく、いまだと100件で日本一になれるからだ。
 自分の家を登録文化財にして、何かいいところがあるか。物質的にはいいところはほとんどない。登録した建物の固定資産税が半額に減免されること、文化庁からブロンズ製の立派な登録証をもらえることぐらいだ。しかし、自分の家が国に登録してある建物であり文化財であるという誇りは持てるし、文化財を護ろうという行為は名誉なことである。
 島原市としては、文化財を護っている文化都市であることを実質で示すことになる。金勘定でいえば、登録文化財1件につき、本年度は県に1万円、市町村に9万円が文化財保護に関する地方交付税の積算根拠になると聞く。100件で年1000万円になるから大きな額である。
提案2 白土町を町並み保存地区に
 白土町の町なみを、文化財保護法で定義されている「伝統的建造物群保存地区」(以下、伝建地区と記す)にする方向で、まちづくりを考えようという提案である。長崎県で現在、国によって重要伝建地区に選定されているのは長崎市南山手と東山手の2地区のみである。長崎港を一望できる長崎南山手の大浦天主堂やグラバー住宅、ここから東北に望む文教地区東山手を訪れたことがある方は多いであろう。ここには江戸時代末期から明治時代の洋館が多く建っている。また、同時代の和風住宅もある。現在、全国で58地区が重要伝建地区に選定されている。毎年数地区づつ増えている。
 島原市では、下の丁武家屋敷の町なみ保存をすすめていると聞く。これに伝統的な町家が軒を連ねている白土町を中心とした町なみを保存地区に加える取り組みをしてはいかがだろうか。
 伝建地区の制度は、地方の時代を先取りした制度とかつていわれた。今から27年前の昭和50年(1975)に文化財保護法が改訂されてうまれた制度である。文化財指定は、国なり都道府県、市町村なり行政の意思によっておこなわれる。これに対して伝建地区は、国のレベルでは「指定」するのでなく、市町村からの申し出があってはじめて「選定」できるのである。市町村が条例にもとづいて、保存計画、活用計画、そして規制と助成などについて決定した伝建地区を、国は重要なものを「選定」するのである。国が「選定」すると市町村の伝建地区は頭に「重要」二の文字が付いて「重要伝統的建造物群保存地区」になる。市町村から選定の申し出がないと、国は選定することはできない。伝建地区の制度が、地方の時代を先取りしたという内容は、伝建地区は市町村の自主性によって運営される制度であり、まちづくりでからである。
提案3 建築マップ「島原まんだら」の作成
 上に提案した「登録文化財100件」、「白土町を中心とした町なみの伝建地区」にしても、これを実現するためには、市民・住民の文化財についての理解と協力がぜひとも必要である。というよりはむしろ、市民・住民自らが立ちあがらなければならない。登録文化財は所有者の意思で登録できる制度であるし、伝建地区は市町村自らが条例を作り、保存地区を決定し保存計画を策定しなければならない。
 島原市には既に数多くの観光マップが作られている。その上にさらに、建築マップ「島原まんだら」の作成を提案したい。その意図は、市民・住民が文化財とその保存、活用について理解するための資料を提供すること、加えてこの地を訪れる人々にも宣伝したいからである。








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