「子ども」をキーワードに多彩な事業
地域の人・情報・場をつないでふるさとづくりを目指す
NPO法人子どもネットワークセンター天気村 (滋賀県)
代表理事の山田貴子さん(左)と事務局長の辻充子さん(右)
「こんぺいとう保育園」では、農体験などの環境学習が日常的に行われている
画一的な教育に疑問を持ち個性を活かせる学びの場を創設
琵琶湖で有名な滋賀県の南側、草津市にある「子どもネットワークセンター天気村(以下、大気村)は、子どもたちを取り囲む環境を考え直そうと、1987年、元中学校教諭の山田貴子さん(45歳)が、たった一人から始めた活動だ。
「当時、各地の学校では校内暴力の嵐が吹き荒れていました。これは偏差値による輪切り教育のもとに、子どもの個性をはぎ取ってきた学校教育の弊害ではないか。社会のひずみを変えるために何かをしたい。その思いを形にしたくて、退職して始めたのがこの天気村です」
活動をスタートさせるにあたっては、まず子どもからお年寄りまで地域の人々誰もが気軽に集え、自由に交流できる場所づくりに着手しようと、父親から譲り受けた土地に2000万円からの借金をして、教養棟、ギャラリー、喫茶店など各種施設を整えた天気村を開設した。
「子どもたちの個性を生かす環境をつくるためには、まず地域でのネットワークづくりが必要。そこから何かが創造されると思ったから」と言う山田さんだが、その大胆さには目を見張る。
夢を持つと人はここまでエネルギーが出るものなのか。
やがてその思いに賛同し、関心を寄せる多くのスタッフが集い、子育て真っ最中の親たちが「思いきり子どもを外で遊ばせたい」との気持ちから、野外活動保育「こんぺいとう」が組織された。その活動の中心的人物となったのが現在、同村の事務局長を務める辻充子さん(46歳)だ。
「自然の中で子どもたちに農作業や冒険遊び、昔からの伝承遊びなどを体験させることで、子ども自身が、自ら試行錯誤しつつ学んでいくものは大きい。小さいうちに五感を働かせる環境をつくることが生きる力や自ら考える力が育つと、帰ってきた子どもの表情を見て、確信しました」
そしてこの「こんぺいとう」活動を軸として、障害児と健常児の交流、小・中・高校生のボランティアの育成、まちづくりワークショップ、子育て支援セミナーの企画など、「学びなおし、癒しなおし、生きなおし」の場として、新しい学び合いのスタイルを創り出してきた。
子どもたちにさまざまな体験の場を提供してくれるのは地域の協力者。「こんぺいとうのおばあちゃん」こと、「四季の家」の川嶋ことさんもそんな一人だ。
楽しみながら山仕事の大切さや苦労が体験できる「里山保全活動」には、毎回多くの大人と子どもが参加
子どもから親子、そして地域へと広がる活動の幅
そんな天気村では99年4月、NPO法人格を取得。「それまでボランティア活動といえば、無償というイメージが強く、収益事業も行う私たちの活動は、ときに異端視されてきた。また様々な提案をするたびに、“それは営業活動なのか”と言われ、悩んでもきた。ですから公益の増進に寄与する“NPO法人”というものができたときには、まさに自分たちの活動の拠り所を得た思いで、迷わず申請をしました」という山田さん。
そしてこの法人化を機に、こんぺいとう活動を発展させた“NPO保育園”を開設。その半年後には、同年齢の幼児と母親同士が一緒に遊びながら情報交換できる「ベビープレイグループ」もつくった。またこうした自主企画の他に、法人化後は、行政などからの委託や補助金事業、助成金受託による事業も受けやすくなったことから、その活動は一層の充実を見せている。
その一例として、自分たちの住む地域を探検し、遊びながら、暮らしやすいまちづくりを考える「あそび隊エココインプロジェクト」というユニークな企画も進行中。
コインは全部で12種類あり、「エココインGETイベント」に登録された天気村や公民館などが主催する里山保全活動や手話講座などに参加すると、コインが1枚もらえる。そして全種類のコインがそろうと、協賛企業提供の環境グッズと交換できるという仕組みだが、これは天気村の行事で実験的に開始したのが、滋賀県21世紀記念事業として認定されたものだ。
「どのコインがもらえるかは事前にわからないため、子どもたちはコインの種類をそろえるのを楽しみにしていて、これまであまり興味を示さなかったイベントにも主体的に参加するきっかけになりました。また自分がまだ持っていないコインを他の子どもと交換することを通じて、知らない子ども同士が交流するきっかけにもなっています」と辻さん。
またこの夏には、「商店街おつかい大作戦」も展開。子どもが草津駅前の商店街におつかいに来ればエココインがもらえ、コインは商店街で開かれる納涼祭で金魚すくいや輪投げなどに、お金の代わりに使えるようにしたのである。商店街の人たちと接することを通じて、子どもが地域に関心を持つきっかけをつくり、かつ子どもを媒介として商店街の活性化を図ろうというのが企画の意図だという。
「NPO活動は、行政や企業では対応しきれない部分に手を伸ばすことができるのがメリット。少しずつではあるけれど、地域ぐるみで子育てをしよう、という手応えを感じている」と辻さんが言えば、山田さんは「とかく変わることは不安定という意味にとられがちですが、NPOの立場からすれば、時代のニーズをつかんで、柔軟に変化していくことが大切。ですから事業の幅を限定させず、未来を担う子どもたちのサポートを中心に、教育、福祉、環境など様々な分野の人・情報・場を必要に応じてつなぎ、地域の誰もがここに住んでよかったと思えるような“ふるさとづくり”を進めていきたい」との抱負を語る。
「人生には雨も嵐の日もあるけれど、必ずいつかは晴れるから」との思いを込めて名付けられた天気村。これからもきっと変幻自在な活動で、地域コミニュティーの再生に取り組んでいくに違いない。