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訪問看護ステーション中井から[11]
「続・地域ホスピス・チームケア」 〜ヘルパーさんの力〜
 所長 吉村 真由子
 
私たち在宅ケアチームは、ご利用者に対して、ピースハウスでのケアとなかなか同じようにはできない困難さに日々直面しています。その中で、ヘルパーさんからの働きかけの力はとても大きく、かつ重要であると常々感じています。
 
症例から
 
 62歳の男性は、末期癌で骨転移しており、神経が侵されてしまったために下半身が麻痺していて、足をほんの少し動かしただけでも腰や足の付け根の痛みが強い状態でピースハウスに入院されました。ピースハウスでは薬剤が適量になるまでコントロールしていき、入浴や排泄の前にはモルヒネや鎮痛補助薬の入った持続皮下注射の機械を早送りし、マッサージをしてから4人がかりでゆっくりと体を動かすことで、痛みを感じさせずにケアをするなど、チームによる入念なメニュー作りがなされていました。
 約1ヵ月後、痛みが落ち着いたので家に帰りたいというご本人と奥様のご希望があり、主治医、プライマリーナースと話し合いながら、退院計画を立てました。お部屋も改造して、寝たまま入浴できるということで、いかに痛みを生じずに入浴できるかということを考え、娘さんなどご家族だけでなく、ヘルパーさんにもケアに参加してもらうことになりました。退院前、主任ヘルパーさんに本人やご家族のお気持ち、プライマリーナース、主治医のこれまでのケアや考えを聞いていただくことができました。
 
在宅ケアを始めて
 
 しかしいざ家に帰ってみると、ご本人の状態がだんだん悪くなり、うとうとされることが多くなってきて、痛みも生じてしまい、お風呂どころではなくなりました。皮下注射の早送りをしてマッサージすると眠ってしまい、そこでケアをするとかえって痛みを感じるのではないかと考え、眠くなりやすい午後から午前中に訪問時間を組み替えるなど状況に応じた柔軟な対応を心がけました。
 清拭と排泄ケアは3、4日目以降にスムーズになってきたのですが、ご本人からお風呂に入りたいという言葉がなかなか聞かれず、準備しても「今日はやめておく」といわれる状態が続きました。
 
ヘルパーさんの申し出
 
 そのような時、ヘルパーさんが「もしお風呂に入りたいとおっしゃったら、すぐに対応ができるように体制を組むので、いつでも声をかけてください」と申し出てくださいました。お風呂の件だけでなく、ご本人につきっきりの奥様の負担が少しでも軽くなるようにと、ケアに入る前にお部屋のお掃除をしてくださることもご提案くださいました。介護保険が始まって、ヘルパー不足で多忙の中、親身になって対応していただけたのはとてもありがたいことでした。ヘルパーさんが、在宅チームケアに自らの働きかけをしてくださったことで、ご本人のケアとご家族の介護生活のきめ細やかな支援へとつながっていきました。
 この方は残念ながらお風呂に入ることなく、ご自宅で最期を迎えました。しかし、お亡くなりになったあと、奥様が「お風呂に入れてあげましょう」とおっしゃった言葉に、その場にいた人たちが、あたりまえのようにすっと動きはじめました。
* * *
 在宅ケアにともなう困難に直面し、ヘルパーさんの力を借りることで、新しいチームケア行うきっかけができました。こうした機会を与えてくださった患者さんとご家族、そして一緒に悩みつつ自らの働きかけをしてくださったヘルパーさんに心から感謝しています。このことは、今後も地域ホスピス・チームケアを築いていく中で、とても重要な出来事になると思います。
 








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