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第6回脳梗塞は予防できる時代
安富 トキ子
 保健婦として長年高齢者の健康維持に従事する。
 
 
 脳梗塞の予防、治療にはその病気のことをよく理解することが大切です。
 
血栓はどこでできるか
 
 脳梗塞には2つのタイプがあり、「脳血栓」は脳血管の表面に直接血栓ができるのに対して、「脳塞栓」は血栓が脳から遠い心臓や頸の血管で作られ、一部が脳まで流れます。
 脳血栓と脳梗塞は別の病気であると誤解されている方が少なくないのですが、脳血栓は脳梗塞の1つのタイプです。
 
脳梗塞は誰が見る
 
 脳梗塞の治療を担当するのは、脳専門の医師が理想的です。これまでは脳神経外科医がその大半を担ってきましたが、最近は脳専門の内科医である「神経内科医」がその主体となりつつあります。しかしながら、神経内科医の常駐する病院はまだ全国でも少ないのが現状です。将来的には、神経内科医を中心に、脳神経外科医、循環器内科医、リハビリテーション医などさまざまな専門医が共同して診療にあたる集学的治療が望ましいと思われます。
 日本は、治療法が最も進歩している国のひとつであるにもかかわらず、脳卒中救急医療システムは欧米に比べて大きくたちおくれています。国や地方自治体が中心となり、早急に整備する必要があると思います。
 
脳梗塞は生活習慣病の王様
 
 食生活の欧米化から日本人にも糖尿病、高脂血症などの生活習慣の割合が増え、動脈硬化、すなわち血管の老朽化が以前より早く起こる傾向にあります。脳卒中の中でも脳出血が非常に少なくなり、代わって脳梗塞がその主役に踊り出ました。そして命は助かったものの後遺症で長く苦しむ方が増加し、寝たきり老人の最大の原因となっています。生活習慣病と呼ばれる高血圧や糖尿病、コレステロールや中性脂肪の高い高脂血症を十分に治療していない人に、早くかつ速く動脈硬化が進行します。
 
どうしたら脳梗塞は防げるか
 
 脳梗塞は十分予防可能な病気です。まずは脳梗塞予備軍を治療することです。動脈硬化を進める病気や生活習慣病を放置すれば、脳梗塞、心筋梗塞などの血管病へと進みます。肥満は血管病の大敵です。何よりも食事療法、運動療法など本人自身がする治療が大前提となります。
 脳梗塞を起こす基礎疾患をしっかり治療すれば、再発は最小限にくいとめられることが、さまざまな研究や調査で明らかになっています。1回目の発作のあとで、どのくらい本人、そして担当医が努力するかによって、予後がきまります。脳梗塞の再発は、繰り返すたびに後遺症が重くなり、再発しやすくなります。
 発病後、3時間以内、最悪でも12時間以内と早く治療を開始できれば、効果は最も期待できます。手足のしびれや視界の半分がみえない病状が脳梗塞からくるとは想像もつかないでしょう。患者さんによっては、これらの症状が短時間で消えることもあります。これが「一過性脳虚血発作」で、脳梗塞の重要な前駆症状です。一過性脳虚血発作の12%は1年以内に、生涯を通せば約半数の人が本物の脳梗塞になるといわれています。








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