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訪問看護ステーション 中井から[10]
「"地域ホスピス・チームケア"を始めよう」
 所長 吉村 真由子
 
 今回のタイトルとして取り上げた「地域ホスピス・チームケア」という言葉には,2つの新しい意味が盛り込まれています。ひとつは,地域の中のホスピスケア,すなわち,ホスピスが施設から地域に出て行き,ホスピスケアを提供していくことです。もうひとつは,地域の中のチームケアです。こちらは,施設サービスであれ,在宅サービスであれ,(病んでいる人の)苦痛症状を緩和しつつ,ご本人の意思を尊重する形で,多職種によるチームケアをおこなっていくことにあります。こうした理念をもった者同士が,地域の中でチームを組んでホスピスケアを提供しようとするとき,地域ホスピス・チームケアが可能になるはずです。
 しかしその実現には,制度上や先入観からくる困難がありました。介護保険が始まる前は,ヘルパーは行政措置の一環として利用制限があった上,利用者の所得に応じて利用料が違い,訪問看護婦がヘルパーを必要と思っても行政からの許可が得られなければ利用できない状況でした。また訪問看護も医師や医療機関とのつながりが中心であり,制度的な利用制限がありました。これに加えて,ホスピスケアは施設ホスピスに行かない限り受けられないという先入観もありました。
 ところが,介護保険が始まり,在宅ケア産業の競争が激化するに従い,利用者にとってよりよいサービスがいかに提供できるかということに注目が集まるようになりました。また最近では,患者さんの側でも,がんと告知されるとすぐに,それが早期がんであろうと進行がんであろうと,治療の方法からホスピスの内容までインターネットで情報収集する人も出てきました。モルヒネの副作用とその対策まで知った上で,よりよいサービスとはなにかを考える利用者が登場したわけです。
 このような状況の変化に応える医療・看護とはどのようなものでしょうか。個々のサービスの質の向上はもちろん大切ですし,専門性を高めることも必要です。しかし,それ以上に,いま大切だと考えるのは,多様なサービスをチームで提供することにより,病とつきあわざるをえない方の生活の質が,少しでも豊かになっていくことをケアの根本にすえることです。市民のひとりひとりが,よりよい生き方と,よりよい死に方をめざしていこうと主張する権利があるということをまず理解し,その上で,訪問看護に携わるものは,専門職としての視点から,施設の内部であれ,地域の中であれ,こうした生活の質を保障するための環境を,他の職種とも協力し実現するということです。ささやかな例ですが,前回,終末期を迎えた方の訪問入浴の例をあげました。1度しか利用できない方を引き受けるのは採算が合わないといわれることもあり,こちらも入浴サービス業者に頼みにくかったのですが,利用者の意思を尊重していきたいという私たちの熱意と利用者・家族の気持ちを根本に置くことで,状況を変えることができるようになりました。
 たしかに,今の医療の状況では,ホスピスや緩和ケア病棟に入らなければゆとりのあるケアが受けられないという声もあるでしょう。ですから,(緩和ケア病棟を含む)施設ホスピスにおいても,ホスピスをホスピスのものだけにしないことが大切となります。たとえば,必要なときに地域に出て行ったり,施設ホスピスを一時利用してもらうことで,在宅,施設,それぞれの利点を利用者が自分の状態に合わせて選ぶことができるようになったり,あるいはまた,施設同士で情報交換をし,一般病院や老人・障害者施設においてもホスピスケアが提供できるように,互いに研究を積み重ね,利用者の状態に応じた施設を選ぶことが可能になればよいと思います。
 私たちは,これらのことを念頭におきつつ,"地域ホスピス・チームケア"に着手していきたいと考えています。








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