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訪問看護 ステーション千代田から(32)
家族の介護力
所長 池田 洋子
 
 今年の酷暑を乗り越え、ようやく秋を迎えて、ほっとしておられることと思います。とくに介護に関わられたご家族からは、夏を乗り越え一安心しましたという声が聞かれます。夏の訪問では脱水予防についてご相談を受けることも多く、ご家族はさまざまな気をつかいながら介護されている場面に多く出会いました。
 私たち看護婦は、訪問でご相談を受けたりケアを実際に提供したりしていますが、すべてのケアを看護婦だけで行うのではありません。それぞれのご家庭の状況にもよりますが、ご家族ができることは、一緒にケアに参加していただいています。そうすることによって、ご家族は自分たちで介護したという満足感を得るばかりでなく、思わぬ力を発揮されることもあるからです。つい最近もご家族の介護に感心させられる出来事がありました。
 Mさんは90歳の女性で、寝たきりの状態ですが、昼間は車椅子に座って過ごされています。主な介護者は息子さんです。仕事を持つお嫁さんも合間をみては介護を手伝っています。息子さんは自分の時間の多くをお母さんであるMさんのケアに費やしていますが、時々発熱するお母さんの状態に訪問看護を希望され、週に1回看護婦が訪問することになりました。
 最初の訪問時、今までの身体の状態やケアについていろいろお話を伺ううちに、入浴は息子さんがひとりで行なっていることがわかりました。Mさんは小柄な女性ですから、息子さんが抱えて入浴させているということでした。しかしそうはいっても、Mさんは車椅子に座っていても、座位(椅子に座った姿勢)を自分の力で保つことが困難な方ですから、入浴させるのは容易なことではありません。どのようにしてシャワーチェアーに座らせ、その姿勢を保たせているのか、安全性は大丈夫なのかなど心配になりました。
 そこで、まずお風呂場を見せていただき、どのような方法で入浴するのかをおたずねしました。お風呂場は洗い場にすのこが敷いてありましたが、シャワーチェアーなどは見あたりません。「この状態で、一体どのようにして身体を洗うのだろう。どのようにMさんの身体を支えているのかしら」と不思議に思いました。そこでさらに詳しく方法をお尋ねすると、「身体を洗う時には、すのこの上に寝かせています。そうすれば安全で倒れることもありませんし、後は私が抱えてお湯に入れ、そのときはこうやって身体を支えて入れています」と身振り手振りで説明してくださいました。それを聞いて私はなるほどと思い感心しまた。
 寝たままの状態で入浴できれば、転倒の心配もなく、また血圧の低下も予防しやすいのですが、その場合、訪問入浴サービスを利用するのをあたりまえのように考えていました。しかし、このご家族は自宅のお風呂でどうしたら安全にできるかをごく自然に考え、実行されていたのです。
 このように介護の現場では、ご家族の介護から学ぶことが多々あります。自宅のお風呂での寝たままの入浴方法に、ご家族の看護力を見せていただきました。








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