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地域医療と福祉のトピックス――その43
「ドイツにみる人間と自然のリズムが調和したQOLを学ぶ」
ツアー報告 ミュンスター大学病院精神科でのお話を中心に
県立長崎シーボルト大学 藤本 末美
 
 日野原重明先生をコーディネーターとして、各地からのツアー参加者一行28名は、フランクフルトに降り立ち、旅はベルリンからはじまりました。この旅では、ドイツの各研修先の専門家との熱心なやりとりや、自然のリズムが調和したQOLの実際について、その実情を視察すると同時に、心理面でのリハビリテーションをワークショップをとおして体感することができました。
 日野原先生がいつも言っておられる「自分の健康は自分で守る」は、保健婦である私の仕事そのものであり、自分の健康をどのような方向に向かって守るのかは、各自が追求する必要があると考えていました。私は旅の日程が過ぎていくとともに、時間が静止しているような不思議な感覚におそわれ、自らの身体が自然の力に癒されて、人間が本来持っているリズムと調和しつつある実感をもちました。ドイツでのこの経験は、本来的な生活の質・QOLを志向した学問と実践によって裏打ちされていることが、各種の視察の中で感じ取ることができました。
講演「QOLを尊重した医療従事者の姿勢 −臨床心理の立場から−」
ミュンスター大学病院Prpf Arof 博士
 
心理治療法の基本的なことについて
 精神的な病気というものは、社会とまったく関係がないということはありません。現代のドイツでは、コモンセスといわれているものがあり、これはこの20年ぐらいで発達した考え方です。コモンセスは精神病の治療をするときに、3つの要素を考えなければならないということです。1.心理療法、2.薬理学・薬物療法、3.社会心理的要素・患者の環境がどのようなものであるかということです。
 どんな人間でも、いやだなと感じることや不快感を感じることがあります。それは普通のことですけれども、悲しみとかやる気とか、恐怖が強くなり、その人を苦しめるぐらいな状況になることがあります。このような感情が強くなって、今までの生活に悪影響が及ぶと、健康な精神状態から不健康な精神状態へとなっていきます。
 
高齢者のうつについて
 高齢者のうつについては、3つの原因が考えられています。1.どういう人生を送ってきたかという人生の履歴、2.遺伝的なバックグラウンド、 3.脳細胞の問題です。そして高齢者の場合には、この3つの要因が一緒になっていて分けることができないために、治療が他の場合よりも難しく、多くの問題もあるのです。
 さらに高齢者のおかれている状態ということもあります。1.精神的にも肉体的にも衰えてきているという状態、2.今までやりたいと思っていたことも諦めていかなければならないということ、3.家族との別れ、社会的に孤立するということ、4.身体的な病気も負担になることが増えてきます。このような事柄に向き合っていかなくてはならないということが、さらにむずかしい状況をつくっていきます。
 それでも高齢者のうつ病というのは、よい形で診療できるようになり、よい結果も生み出しています。医学でもっと認識し、学ばなければならないことは、高齢者への対応、診療も若い人と同じ態度で接することです。
Clemens-Wallrath-haus  老人精神センター
 
 4年前にできた施設で軽症の方、患者本人だけでなく、お世話をしている家族のための施設でもあります。
 デイケアセンター、デイクリニック、デイケアの施設があります。デイケアでは、患者をできるだけ長く家にいられるように、施設や病院に送りこまないようにしています。患者のためのいこいの場として生活できるように作られています。この施設ができてから、ミュンスターの老人精神医療が発達しました。以前は病院と自宅と両極端なものしかありませんでしたが、ここは患者がなるべく在宅にもどれる援助、病院と在宅の間で援助する方向がたくさんあり、在宅ケアが生まれました。現在38名が利用しています。
Altenwohngemeinschaf Vll mit 痴呆老人グループホーム
 
 ミュンスターのモデルプロジェクトとして、痴呆の患者のグループホームがあります。1つの施設に10人が住んでいます。入院のクリニックや在宅で介護をしてもうまく機能しない部分を、このようなグループホームで行うことが効果的ではないかとはじまったものです。それぞれの方が24時間ケア付きで、それぞれの部屋で住めるようにするということが最大の目的です。長所としては、痴呆ではあっても、可能な限りその人らしく暮らせるということがあります。
 施設は1915年に大学教授のために作られた庭付き個人住宅を、1995年から1996年にかけて改造したものを使用しています。自分の好きな家具とか写真を持ち込み生活しています。マンパワーや運営については、ゆったりとした配慮がされていました。
終わりに
 
 Prpf Arof博士の講演を通して、精神病とはどのようにとらえるものか、高齢者のうつについて多くの示唆に富んだ考えを得ることができました。その後、学問としての考え方が実践されている老人精神センターや、痴呆老人のグループホームを見学しました。これらを通して関係施設間のそれぞれの医師が理解しあい、協力関係にあることが大きな成果につながっているものと思われました。
 このように充実した旅の時間の経過とともに、人間が自然のリズムの中に取り込まれていく、癒されていく自分に驚きを発するようになっていました。
 この経験を通して、人間がQOLをめざして生きていくことをあらためて見直す必要性を感じ、その実際に向けてそれぞれの立場で、どのような仕事をしていけばいいのかを考えるよい旅となりました。
 
 ミュンスターのAlexianer(芸術療法を用いた精神科)病院を訪れた一行は、予期せぬ新聞記者の歓迎を受けました。右記の写真はこの病院の「感覚公園」にあるパートナーブランコの前で撮影されたもの。写真下には「日本人の視察団長のDr.med.日野原は見るからに楽しそうにブランコに乗っていた」とあります。
 この病院には他にも「芸術ハウス」や「迷路の泉」などがあり、実用的でクリエイティブなセラピーに接することができました。
パートナーとブランコを愉しむと題した現地の新聞
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