日本財団 図書館


「心」の習慣病
 「生活習慣病」という言葉は,すでに浸透していることと思います。長年の生活習慣が蓄積して発病するわけですから,治療だけでなく,生活習慣を改めない限り病気の回復は望めません。私は臨床心理学が専門ですが,心の分野でも体と同じように生活習慣病があるのです。
 心の病気である「うつ」の問題は,うつ的な心のありようが蓄積された習慣病であるといっても過言ではありません。多くの場合,青少年期の親の生き方や育て方が大きく影響しているのですが,人生の何か困難に直面すると,それに向き合って対処するのではなく,回避したり逃避してしまうことが習慣になってしまっているのです。つまり周囲と自分を切り離して自分の世界にこもってしまうことで,直面している困難も含めて自分の周りのことが気にならなくなり,苦痛やストレスから逃れてしまうのです。このうつ状態のもとにある病理が,自分で思考しない,判断できないいわゆる「依存症」といわれるものです。つまり,依存的な性質が逃避へと向わせ,これが習慣化することで,うつ病の状態を引き起こしているのです。
 このような状態ですと,何が必要なのか自分で判断するというより,周りの人に合わせたり,社会の流れに遅れてはならないという外的要因に必要以上に左右されてしまいます。そのために,心が不必要なものでがんじがらめにされて自分ではどうしてよいか分からなくなり,無意識的に抑うつ状態をして防衛してしまうのです。
 現代社会では,このうつ状態が形や姿を変えて生活に現れてきています。摂食障害,アルコールやニコチン依存,ワーカホリック,ギャンブル,ゲームや出会い系ネット依存などです。内面的には孤独感と不安感に悩まされているのですが,その問題に直接立ち向かうことができずにいるのです。
 これらは正に心の習慣病といってよいでしょう。生活習慣病ですから,治療効果もすぐには期待できません。しかし,そのままにしておくと,少しずつではありますが,確実に心をむしばみ,思考,意志,情緒などの人間の基本的な機能が低下し,家庭崩壊や対人関係の混乱が生じ,仕事や日常生活に大きなダメージを与えてしまいます。
 それでは心の習慣病に対する適切な対処法はあるのでしょうか。
 私は「心の自立」をおすすめします。心の習慣病も体の習慣病改善と同じように,粘り強く改善していくことしかありません。自ら考え,悩み,そして決断するということを繰り返すことで心が鍛錬されていきます。心は体の筋肉と同じように,使えば使うほど弾力がでて,困難や危機などに直面しても,回避せずに柔軟に対処することが可能となるのです。心が自立してくると,社会や周りの人々と適切な相互関係を保っていくことができますし,それが心の安定につながります。心の安定は,ひいては体の生活習慣病の改善にもつながっていくのです。
 最後に,心の習慣病の特徴的な症状を5つあげておきます。[1]慢性的な不安感,[2]過食/アルコール依存,[3]過眠,[4]過度の自己犠牲,[5]「ノー」が言えないです。このうち3つ以上ある方は要注意です。
財団法人ライフ・プランニング・センター
 臨床心理ファミリー相談室室長 丸屋 真也








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION