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訪問看護 ステーション千代田から[31]
暑い夏,水分摂取不足による脱水にご用心
 所長 池田 洋子
 
 暑い夏がやってきました。外を歩く私たちは季節の移り変わりを実感しながら訪問しますが,この暑さを十分に感じる毎日です。自らの健康管理に気をつけ,帽子や日傘を持ち,また水分を補給して脱水を予防しながら訪問しています。ところで,この時期,訪問先で利用者の方々が脱水症状を起こされている場面に何回か遭遇します。そこで今回は脱水について考えてみたいと思います。
 脱水は何らかの原因によって,体の中の水分が減少した状態です。原因はいくつかあげられますが,そのひとつは水分摂取の低下です。なぜ水分をとれないのか不思議に思われるかもしれませんが,利用者の方々はあらゆる疾患を持っています。その治療のために内服している薬の影響やその疾患の影響で,経口摂取がしにくくになることが考えられます。また高齢になると体の中の水分保持量が減少するうえ,体のバランスを維持する機能が低下することも影響します。皆さんは夏になると尿の色が濃くなる経験をされたことがあると思います。これは体の中の水分が不足すると,体の機能が尿を濃縮して体から失われる水分量を最小限にさせようと働くためです。高齢者ではこの機能が十分に働かなかったり,のどの渇きを感じることも少なくなり,適切に水分摂取ができなくなることが脱水になりやすい原因のひとつです。下痢などの症状がある方は,一層脱水に注意してください。
 脱水の状態になると,さまざまな症状が現れます。頭痛やめまい,頻脈,倦怠感,食欲低下,吐き気,微熱,意識障害などです。これらの症状を観察し,どのようなことが起因しているのかを判断し,医師に報告して適切な治療が受けられるようにしなければなりません。
 先日こんなケースがありました。Sさんは97歳の女性。娘さんが介護をしておられます。数日前からの発熱はかなり下がったものの,元気がなく,食欲もありませんでした。いつも大きな声で娘さんの名前を呼ぶのですが,その元気もありません。微熱があり,脈も少し速い状態でした。水分の補給を試みましたが,上手にとることができませんでした。そこで医師に連絡し往診してもらい,自宅で500mlの点滴を受けることとなりました。点滴を受けたSさんは元気を取り戻し,少しずつですが口から水分をとれるようになり,大きな声が戻ってきました。Sさんは脱水を起こしていたのです。すでに自分では水を飲むこともできなかったのですが,点滴で水分を補給したところ,幸い脱水症状が改善し回復しました。
 私たちは脱水を予防するために,ご本人やご家族に水分をよくとっていただくようにお話ししています。高齢の方は一度にたくさんの水分をとることはできませんし,のどの渇きを訴えることも少ないので,いつでも水を飲めるように,手の届くところに飲み物を置いておくことや,数回に分けて飲んでいただくこと,嚥下障害のある方にはとろみをつけて,たとえばゼリー状にするなどの工夫をしていただくこと,熱があったり,下痢をしたときにはいつもより多めに水分をとっていただくことなどをお話ししています。しかし疾患によっては水分制限のある方もいますので,医師や看護婦に相談しながら看護していくことが望ましいでしょう。
 暑い夏,皆様も脱水に気をつけてお過ごしいただきたいと思います。








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