日本財団 図書館


地域医療と福祉のトピックス―その40
在宅介護支援センターの活動
社会福祉法人博仁会 社会福祉士 富永 文彦
千代田区の高齢者福祉の概要
 
 千代田区は国際都市・東京の中心に位置します。そのため昼間人口は100万人といわれていますが、平成13年3月末現在、夜間人口は3万9,490人で、 65歳以上人口は約8,000千人。高齢化率は20%を超え、23区でも台東区に次いで二番目に高い高齢化率となっています。
 平成7年、区内に初めて特別養護老人ホーム、高齢者在宅サービスセンター、そして在宅介護支援センターが公設民営で一番町に開設されました。高齢者政策の要として積極的な活動をしています。現在の利用者は、特別養護老人ホームの入所者82名、ショートステイ8床、デイサービス138名、痴呆症デイサービス39名、機能訓練コース45名、入浴主体コース65名、配食サービス145名の利用登録者がいます。
 今年3月、2ヵ所目の高齢者通所介護施設として、西神田高齢者在宅サービスセンターが開設されたことによって、通所サービスの待機者は緩和され、両センターを利用することで週2回の利用が可能になりました。しかし、短期入所や特養入所が利用できるのは一番町のみであるため毎月待機者が多く、その解消が課題でもあります。
 
在宅介護支援センターとは
 
 在宅介護支援センターは、在宅の要援護高齢者や介護者等に対し、在宅介護に関する総合的な相談に応じ、ニーズに対応した各種の保健福祉サービスを総合的に受けられるように、各機関との連絡調整を行なう身近な相談機関として設置されています。
 
平成13年4月対応実績
(総合相談件数690件)
電話相談 477件
訪問相談 118件
来所相談 71件
その他 24件
*職員配置
看護婦 1名
介護福祉士 1名
社会福祉士 1名
非常勤看護婦 1名
  計4名
(全員介護支援専門員資格保有)
 
 介護保険法の施行により「居宅介護支援事業所」いわゆるケアマネージャーの事業所が新しく制度化され、それまで地域のケアマネジメントの役割を担ってきた「在宅介護支援センター」の位置付けや役割が再編されてきています。ケアマネージャーに頼めば、すべての相談に乗ってくれる事業所ができ、これまでの支援センターの役割を担い始めています。当支援センターも千代田区の事業主体となり「居宅介護支援事業所」の指定を受け、介護支援専門員が1名配置されています。居宅サービス計画は、困難事例のみ区の依頼によって作成しています。また、支援センターには今までに増して介護サービスの導入だけでは問題解決が難しい、さまざまな生活問題を有する相談が寄せられており、高齢者の生活を総合的に受けとめる視点で相談を受け、複雑、多様化している生活状況の改善のために支援活動を行なっています。
 
退院に向けての事例
 
 昭和2年生まれの男性(74歳)、主たる介護者は妻、長男夫婦が同居。
3月1日 脳梗塞で倒れて入院、右片麻痺となり病院内でリハビリ実施。
4月3日 長女、支援センター来所。退院後の在宅サービスについて相談。在宅サービスの説明、介護保険制度の説明、申請手続きを行なう。
4月7日 病院より自宅へ一時帰宅、その際、支援センター職員が自宅訪問し、介護認定のための調査をする。
4月21日 自宅の住宅改修のための調査。段差解消、扉の位置変更、浴室、トイレ手摺を設置。
5月9日 病院より退院。家族介護始まる。退院時の在宅リハビリメニューあり。
5月11日 支援センター職員が再度訪問。今後のプランニングを行なう。介護認定5の結果報告。仮ケアプラン作成、家族の了解のもと各事業所へ面接所見と各サービス提供を依頼。
 
 上記の事例は、退院時にむけた在宅サービスの展開方法として、比較的うまくいったケースです。家族関係、経済的な問題、価値観の違いにより、それぞれのケースが違った形で問題点が現れてきます。ケースバイケースで的確な対応を行なわなければなりません。また、相談の中にはいまだ解消されていない問題として、社会的入院者が多くみられます。3ヵ月経過後は病院のタライ回しがなされ、次の病院探しを家族と一緒に行ない、その際の転院は高齢者である患者さんに大変な苦労が強いられたり、感染症などのリスクを抱えた高齢者の転院先に苦悩しているのが現状です。また最近、摂食困難のために胃ロウを造設し、退院してくる高齢者も多くなっています。そのため医療的な処置が在宅でなされていることもあげられます。その際、病院から在宅へのバトンタッチ、いわゆる連携がとても重要であり、一機関だけでなく総体的な体制で在宅療養を支えていかなければなりません。歯車の一つ一つが有機的に噛み合い地域全体での連携、連絡体制が切望されます。
 
痴呆性老人の居場所
 
 たくさんの課題があるなかで、これからの一番の問題点と思われる痴呆性老人の居場所について述べてみます。65歳以上の痴呆性高齢者は156万人、2015年には262万人に増加すると予想され、痴呆のケアは、介護保険の最大の課題とされています。長い間、施設内でたくさんの痴呆性老人とお会いして、とにかく穏やかな気分を保ち不安にさせないことを第一にケアしてきましたが、それは、施設という箱の中で交代勤務がなせるワザであって、在宅ではそうはいかないと思います。24時間365日、連続して在宅で家族だけの介護には限界もあり、不可能です。ある痴呆老人のケースでは、イザコザ、財産問題のなかで混乱がみられ、俳個・迷子・不潔行為・粗暴な言動・暴力・摂食異常などの問題行動が大きく絡み、介護者の負担となっています。その混乱している高齢者に対して、単なる精神病院や施設に入所させていく支援ではなく、生まれ育ったその地域・社会全体がどう痴呆性老人の居場所を作り、暖かく見守っていく体制づくりに取り組んでいくかが、大きな課題となっています。在宅介護支援センターとしては常に家族の身になって、一緒にこれからのことを考えていきたいと思っています。
 
相談者から学ぶこと
(子供叱るな来た道じゃ・年より笑うな行く道じゃ)
 
 私は大学時代のサークル活動で、柳田国男の民俗学を学びました。“人の一生は祭りである”というテーマで出産、結婚、葬式、祭りなど廃れていく昔の風俗習慣を全国の過疎地帯をまわってお年寄りから聞き取り、小冊子にまとめたことがあります。その頃から、お年寄りとの関わりが始まりました。お年寄りの昔話には、そのお年寄りの生きてきた時代を身近に感じることができて、その中から学ぶことが多いのです。先日も業務の傍ら高齢者と昔話となり、時を忘れてお話をさせていただきました。これからも人生の大先輩として、尊敬の念を持ちながら接するなかで、信頼される相談員として支援していきたいと思っています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION